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【レポート】ボリビア、インド、デンマークからもフィルムメーカーが登場!6/15 ラフォーレ原宿会場

2018/06/16

130以上の国と地域から10,000以上の応募があったオフィシャルコンペティション部門から、本日も選りすぐりの作品を上映!ここでは、国内外のフィルムメーカーが集まったQ&Aセッションの模様をレポートします。

 

アジアインターナショナル&ジャパン 1

最初にご紹介するのは、家族でアメリカに移住した中国系姉妹が、ちょっとした喧嘩を引き金に、慣れない暮らしの中で溜まっていた苛立ちをぶつけ合う『おねえちゃん』。いじらしいほど表情豊かに姉妹を演じた子役の二人は、実は演技するのは今回が初めて。Feng-I Fiona Roan監督は、子供たちが演技しやすいように、ワンシーンワンシーンをできる限りシンプルに構築していったことなど、子役演出の方法論を語ってくれました。

Feng-I Fiona Roan監督(中央)とおねえちゃん役のFuquiang Duさん(右)。印象的だったラストシーン、お風呂でのアップショットは、カメラマンと向き合ってバスタブに入り、気持ちを込めて演技したそうです。

 

新宿3丁目に入り浸る“こじらせ女子”の心の叫びを圧倒的なエネルギーで描いた『今夜新宿で、彼女は、』。山田佳奈監督は、“どんなにしんどくても自分と向き合う瞬間”を作品にしたかったといいます。危険だと聞いていた夜の新宿での撮影苦労話や、主演女優がプロデューサーとして山田監督の起用を含めて、作品づくりを主導したという日本では珍しい制作システムについてなど、興味深いお話を聞かせてくれました。

『今夜新宿で、彼女は、』の山田佳奈監督

 

第3回ブックアワード受賞作品『王様の選択』は、主演の柄本時生さんの力の抜けた雰囲気がぴったりハマったコメディ。何気ないセリフでも、柄本さんが絶妙な”間”で発するだけで会場に笑いがあふれていました。新谷寛行監督は、関西弁で綴られた原作を受け取った時、自身も関西人ということもあり自分らしく撮れると直感したそうです。元ネタであるアンデルセンの名作『裸の王様』の持つ普遍的なテーマが、現代のユーモアセンスで巧みに表現されていました。

第3回ブックアワード受賞作品『王様の選択』の新谷寛行監督

 

アジアインターナショナル&ジャパン 3

公園でセリフの練習をしていた俳優の中年男が、幼い女の子にいたずらをしたと言いがかりをつけられ、母親に警察を呼ばれてしまう『午後の悪魔』。中年俳優を軸にストーリーを展開させながら、実は、一見幸福そうな母親側が持つ、深い心の闇を描いています。

中村真夕監督は、この作品を“公園ホラー”と名付け、中流家庭の母子が集うのどかな公園で起こる“ちょっと怖い話”をテーマに据えたといいます。編集段階で周囲に映像を見せた時、女性は深く共感し、男性はまったく理解ができなかったという、興味深いエピソードも披露してくれました。

中村真夕監督(左)と出演者の優恵さん。ご自身に子どもがいないという優恵さんは、演じるにあたり母親の気持ちを想像するのが難しかったといいます。

 

 

続いての作品は、驚くことに夫婦間のレイプが合法だというほど男尊女卑のが根強いインドで、恐ろしい結婚生活から逃れて自立を試みる女性を描いた『偽りの赤』。この物語の元ネタは、なんと本作のプロデューサーでもある母親のSurekha Senguptaさんの実体験。25年連れ添った夫と別れ新居探しをした時に、不動産屋から拒否され続けたという話を聞いた娘のReema Sengupta監督が、インドの現実に対する怒りを込めて脚本を書き上げたといいます。

『偽りの赤』のReema Sengupta監督と母親でプロデューサーのSurekha Senguptaさん。この日が、記念すべきアジア初上映となりました。

 

売れないインディーズバンドが、東京で大人気だと偽って隠岐の島での凱旋ライブを行う『The Band’s New Stage』。その珍道中を、フィクションをドキュメンタリー風に表現するモキュメンタリースタイルで演出した作品です。見ているうちにフィクションだかドキュメンタリーだかわからなくなってしまうリアリティ感は、セリフの半分以上がアドリブという演出によって引き出された面も大きかったようです。主演の宇賀那健一さんは、監督から『オーシャンズ11』のブラットピットみたいに演じてという無茶振り(?)があったことを明かしてくれました。


左から、田中雄之監督、主演の宇賀那健一さん、映画の中でもかぶっていた自前のマスク姿で登場してくれた上田謙太郎さん。

 

インターナショナル プログラム 2

試合中に大怪我をしたボクサーの母親に自信を取り戻してもらうため、必死で奮闘する少女を描いた感動作『シャドウボクシング』。

Andreas Bøggild Monies監督は、会場のお客様からあがった「なぜ女子ボクサーを主人公にしたのか、監督の母国デンマークでは女子ボクサーが一般的なのか?」という質問に、「ボクシングというテーマは父と息子、というステレオタイプを壊したかった」と答えてくれました。(ちなみに、デンマークでも女子ボクサーは珍しい存在だそうです)

高い完成度を持つ本作ですが、なんとこれが初監督作品。はじめてショートショートをつくってみて、短い時間だからこそ構成をしっかり組み立てる必要があると感じたそうです。同時に、構成が完成していれば、映画に最も大切なエモーションを演出しやすくなることに気づいたと語ってくれました。

『シャドウボクシング』のAndreas Bøggild Monies監督。10年間映像エディターとして働いてきた経験があるそうです。

 

アジアインターナショナル&ジャパン 4

スマホに入った公衆電話からの着信。それは、突然、東京にやってきた父親からものだった・・・。武骨だが繊細な父の思いやりが、故郷を離れて一人で暮らす娘の心にやさしく染み込んでいく『公衆電話』。

実は、この作品、松本動監督が携わっている地元・立川の映画祭で出会ったスタッフ・キャストとつくったそう。ロケ地もやはり立川で、朝の9時から翌明け方の4時までかけて撮影したといいます。まさに、地元密着型の温もりを感じるショートフィルムでした。

左から、『公衆電話』の松本動監督、出演者の入江崇史さん、貴玖代さん、音楽を担当した鈴木光男さん。

 

 

『年上のプライド』は、大学卒業後も仕事の見つからないジュノが、後輩に見栄を張ってついた嘘が思わぬ事態を引き起こすコメディ作品。スローモーションのアクションシーンなど、笑いどころが満載です。

就職難が知られる韓国ですが、この作品もHoyoon Hwang監督のお兄さんのエピソードがもとになっているそう。「日本の観客の皆様が、どのような感想を抱かれているか知りたいです」と監督が会場に問いかけると、大きな拍手が起こりました。

『年上のプライド』Hoyoon Hwang監督(右)

 

一人暮らしの妹のアパートを訪ねると、そこには見ず知らずの男がいた。妹の恋人と名乗り必死に証明しようするその男の言動が、可笑しくも怪しく恐ろしい『リトル ラム』。『心が叫びたがってるんだ。』の熊澤尚人監督が大学の授業でつくったという特別上映作品です。

熊澤尚人監督(左)と、大学3年生の時に書いた脚本が採用されたというオザキ(右)さん。

この作品、もともとは、学生にプロの映画制作過程を見せるための企画だったそうで、見学の生徒たちに360度囲まれた状態で撮影を行ったといいます。リハーサルを入念に重ねて、毎カット5〜6回のテイクを繰り返し、撮影は8時間にも及んだとのこと。

出演者の松山愛里さん(左)、広瀬斗史輝さん。広瀬さんは、「(周囲を見学の学生が取り囲んでいたので)映画を撮っているのに舞台のような感覚でした」とコメント。

 

インターナショナル プログラム 8

ボリビアで実際に起きているという、捨て子問題を描いた『私の息子』。まるでドキュメンタリーのようなリアリティは、Maria Zinn監督がこの問題を支援する団体で働いていたことや、出演者の母親が実際にこの団体のサポートで仕事と住処を見つけた人物であること、赤ん坊が本物の捨て子であったことなど、リアリティの積み重ねによって生み出されています。エンディングは、「フィクションとして希望を込めるか、残酷な現実を見せるかを悩みながらも、最終的にこの問題をインパクトを持って伝えられる方法を選んだ」とコメントしてくれました。

『私の息子』のMaria Zinn監督

 

周囲から疎まれている偏屈じいさんに、アヒルのPUEBLOが現れ友達になる。PUEBLOは、じいさんの生活に変化をもたらし、やがて周囲の人と交流する機会が巡ってくる『道徳って何だ』。人間のパートナーとして、犬でも猫でもなく、アヒルを選んだちちょっと変わったセンスが物語にオリジナリティを与えています。

Ana Garcia Rico監督は、アヒルの存在に理想の社会や人々を象徴する役割を込めたといいます。撮影監督のSam Travisさんは、監督から受け取ったシナリオを読んだ瞬間、地元の風景が思い浮かびロケ地を決めたといいます。イギリスの田舎町だということもあり、映画撮影の噂はすぐに広まり、町をあげてサポートしてれたそうです。

左から、撮影監督のSam  Travisさん、Ana Garcia Rico監督、アヒルの世話役・Pablo Perezさん

いかがでしたか?

Q&Aセッションを聞いていると、予算やスケジュールの制約が多いショートフィルムづくりの現場で、皆さん、さまざまなチャレンジや工夫をしながら制作していることがよくわかります。

自分の生活圏の中でロケーションを決めたり、家族や友人などをキャストとして使ったり、その一方で有名な俳優にも予算がないことにも臆せずシナリオを送ってみたり・・・。

明日も、フィルムメーカーの“ここだけの話”を聞きに、ラフォーレまで遊びに来てくださいネ。

written and photo by チバアキフミ