人生や生きる意味への疑問を投げかけるショートフィルム「人生を駆け抜ける」
2016年05月28日
『人生を駆け抜ける(Runnig Through Life)』
Helene Moltke-Leth/デンマーク/8:15/エクスペリメンタル/2015
彼女が街を走り抜けると、ストレスを抱えた現代人の心の声が聞こえてくる。彼女の内側は崩壊しかけ、煮詰まっていく思考に押しつぶされそうだ。そこにあるのは彼女の考えと、日々社会から押し付けられる期待についてあなたと交わす会話だけ。
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仕事して、お金を貯めて、家庭を持って、趣味を増やして息抜きして…そんな生活は、本当に自分のためなんでしょうか。『人生を駆け抜ける(Runnig Through Life)』はそんな人生や生きる意味への疑問がテーマになっています。
友達とちょっとした世間話をした時のことです。
普通に仕事して、家庭を持って、無難に生きていくのが楽だなと呟いた時、友達は「無難なんてそれは本当に無難なのかなぁ。私は仕事しなくても無難に過ごしたい…自由に生きたいなぁ」と言いました。
その時、私は雷に打たれたような衝撃を受けました。
大袈裟かもしれませんが、「あなたの無難は私の無難じゃないわ」という意味に聞こえたからです。それは、「あなたの常識は私の常識じゃないわ」という意味にも受け取れる言葉でもあると思います。
友達と話している時にそんな言葉を聞いて、自分が無難だと思っている生活の仕方が、実は単に自分が考えているものにすぎないということを教えてくれたように思います。
常識、モラルといった言葉は、現代社会に適合するために必要な道徳や知識、マナーを意味する言葉ですね。でもそれは時に、息苦しさを感じさせる言葉でもあります。
最近ではモラルハラスメントという問題が注目されています。パワーハラスメント、マタニティハラスメント、セクシャルハラスメントといった問題の規模も大きくなっています。例えば、「彼氏はいるの?」と言った言葉もセクシャルハラスメントに当たるというニュースを見たことがあります。何気ない日常会話にも注意すべきだという考え方が徐々に浸透しているようです。
社会を生きていて息苦しさを感じる時、常識やモラルを問い直す経験が皆さんにもあると思います。
『人生を駆け抜ける(Runnig Through Life)』は、その息苦しさの辛さがリアルに伝わってきます。
誰もいない、夜の都心をランニングしながら駆け抜ける女性は、社会に対するストレスを列挙していきます。時間が経つに連れて、だんだん口調が荒々しく、息苦しくなってきます。走り続ける息苦しさと、人生を走り続ける息苦しさがリンクしていくのです。その限界が来た時、ある問いが彼女の中から聞こえてきます。
映像の美しさもこの映画の魅力。シンプルな構図でもよく考えられている映像です。都会を走っている映像は社会そのものを駆け抜けているようにも見えるし、地球や宇宙を連想させるような壮大な印象を抱きます。だんだんのカメラが主人公に近づいていくのも、クライマックスの感動をより大きくさせます。
常識、モラルは単なる一つの考え方であって、正解ではありません。でもそれが社会を覆い尽くしている現代社会。この世の中を走り抜ける息苦しさが、社会問題となって姿を現すのではないしょうか。
この映画を見て、改めて山積みになっている人類の課題の根端を再認識させられました。
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