SSFF & ASIA 25周年記念:ジャパン・ハウス Los Angelesと米国ハリウッドで開催した映画祭のイベントレポート&ムービーを公開 ヴィム・ヴェンダース監督作、濱口竜介監督作など6作品上映

SSFF & ASIA 25周年記念:ジャパン・ハウス Los Angelesと米国ハリウッドで開催した映画祭のイベントレポート&ムービーを公開 ヴィム・ヴェンダース監督作、濱口竜介監督作など6作品上映

米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル& アジア(SSFF & ASIA)と外務省が日本文化発信拠点として、また日米交流による人材育成のプラットフォームとして展開するジャパン・ハウスLos Angelesは、今年、映画祭が25周年、ジャパ・ハウスが5周年を迎えたことを記念し、現地時間の2024年1 月11日、米国ロサンゼルスのTLC チャイニーズシアターにて、ショートフィルムの映画祭「UNLOCK CINEMA | Short Films, Infinite Possibilities」を開催いたしました。
イベントでは冒頭、ジャパン・ハウスLos Angelesの館長海部優子氏が登場し、コロナ禍を経て2回目となるLos AngelesでのSSFF & ASIA開催を大変うれしく思っていると映画祭紹介を紹介。一方で、1月に起こった能登半島地震で被災された日本の方々へのお見舞いと、被害を受けられた方々、地域の安全と復帰、復興についてもコメントしました。
「自然災害だけでなく、戦争や気候変動など、私たちの周りではたくさんの不幸な出来事も起こっています。しかしながら、映画は、癒しとパワーを与えてくれます。人々をつなげてくれます。共感を与えるとともに、異なるビジョンや文化についても教えてくれます。こんな時だからこそ、こうして日本の作品をここロサンゼルスで紹介できることに意義を感じます。」と語り幕開けたイベント。
まずは『PERFECT DAYS』が世界の映画祭で注目を浴びるヴィム・ヴェンダース監督が日本で撮影した最新たショートフィルム『Some Body Comes onto the Light』や、黒澤明監督以来初めて、アメリカのアカデミー賞と世界三大映画祭全てで受賞を果たした日本人監督として世界から熱い視線が集まる濱口竜介監督によるショートフィルム『天国はまだ遠い』、SSFF & ASIA 2023でグランプリ=ジョージ・ルーカスアワードを獲得した『希望のかけ橋』など6作品の上映が行われまし
た。
上映後には、南カリフォルニア大学の映画配給およびタレント開発部門シニアディレクターのSandrine Cassidy氏がMCをつとめ、『PERFECT DAYS』の脚・本プロデューサー高崎卓馬氏、映画祭代表の別所哲也を迎えてのパネルディスカッションが行われました。

トークイベントのアーカイブ映像

高崎氏が審査員をつとめる、BRANDED SHORTSとは

 別所と映画祭の紹介に続き、高崎氏が紹介されました。広告代理店の電通でクリエイティブディレクターをつとめてきた高崎氏は、SSFF & ASIAの企業のブランデッドムービーにフォーカスするBRANDED SHORTS部門の審査員でもあり、また、アカデミー賞国際長編長編映画賞にも見事ノミネートを果たした『PERFECT DAYS』の共同脚本、プロデュースを行っている、今最も注目のクリエイターであることから、今回のイベントへの参加をお願いした背景が説明されました。

 高崎氏は、「BRANDED SHORTS」がスタートした2016年頃から、人々がテレビから離れ、コマーシャルの居場所がなくなってきた。そんなときに、映像という原点に立ち戻った。BRANDED SHORTSはもう8年目ですが、毎年、そこに集う作品の表現や内容は異なっている。しかしそこには共通して、クリエイターが作っている「映像」「映画」の世界があることに気が付く。この先の未来、どんな風にBRANDED SHORTSが進化していくのかはとても興味深い。」とコメント。

 審査のプロセスはどんなふうに、どんなポイントで行われるのかとのCassidy氏からの質問には、「映像としてエモーショナルであること どんなことでも良いので、観たときに心が動くかどうかを見ている」と回答しました。

兄弟のような関係:ヴィム・ヴェンダース監督のショートフィルムと長編『PERFECT DAYS』

 その後、トピックは長編映画『PERFECT DAYS』と、今回上映したヴィム・ヴェンダース監督のショートフィルム『Some Body Comes into the Light』の関係についてに。

 このヴェンダース監督のショートフィルムが長編作品の源になったという点について聞かれると、高崎氏は、「『PERFECT DAYS』は東京のトイレ清掃員が主人公の作品。もともとは、ヴィム・ヴェンダース監督と、トイレを舞台にした短編映画を作ろう、と動き出しのがきっかけだった。それが、作っている間に色々なエピソードが重なって長編化しようとなった。」と説明しました。

この他にも、東京のトイレを取材してシナリオを作っているときに、何か所かにはホームレスがいたことから、ヴィム・ヴェンダース監督とそのことをきちんと一つの話として映画の中に入れたい、と話し合ったこと、ホームレスは誰が演じるかを考えたときに、高崎氏が大好きな田中泯さんにお願いしようと思ったことなど、エピソードが語られました。

 ヨーロッパでも舞踊家として広く知られる田中泯さんが、まさかホームレスの小さな役を演じてくれないだろう、ヴェンダース監督は当初そう考えていたとのこと。映画の中の一番ラストにふさわしい映像になるだろうからと、『パーフェクトデイズ』の撮影最終日に1日をかけて撮影されたダンスシーンは、編集の段階で、個性が強すぎて、泣く泣くカットしなくててはならなかったそうですが、しかしながら、気持ちが収まらなかったヴェンダース監督が、しばらくした後に、このシーンをショートフィルムにしようと、アイディアをひらめいたことも伝えられました。

 「映画の種類としては短編と長編の『PERFECT DAYS』は全く違う種類のものですが、出自が一緒、兄弟のような関係です」と高崎氏は説明しました。

 別所も、(『Some Body Comes into the Light』は)「すごく密度の濃い作品でした」と感想を述べ、以前、田中泯さんが「ぼく自身の舞踊はスクリーンでは見られない。でもヴィム・ヴェンダース監督が何を見たかったか、観客に何を見てほしかったか、は見ることができる。」と話していたことを伝え、映像に対するヴェンダース監督の思い入れが表現されていると語りました。

映画祭、学生の映像制作の現場で四半世紀 変化と潮流、未来像は

  Cassidy氏から別所へは、25年間映画史をやってきた中で感じる変化についても質問がありました。

別所は、「社会の変化、テクノロジーの発展と共に制作環境、語られるストーリーの変化はもちろんある」としながら、近年では「価値観の多様性やジャンルを超えた新しい表現が見られる」とコメント。「Web3.0やNFTなど技術の発展と市場の変化によって、“クリエイターズ・エコノミー”が生まれ始めている。」とした上で、「SSFF & ASIAでは引き続き、映像表現の可能性を広げるクリエイターと作品を応援していきたい。」と語り、「SSFF & ASIA 2024に向けては、現在までに、AIをテーマにした、またはAIが制作に使用されている作品は71点、NFTに関するショートフィルムは21点集まっている」と加え、若いクリエイターたちはそうしたテクノロジーやコンセプトにも影響を受けているのではないかと述べました。

 別所からも、南カリフォルニア大学(USC)の学生たちが作る作品を間近で見ているCassidy氏に対し、ここ最近の、ウェブ3.0やテクノロジーの発展によって見られる変化、潮流があるかとの問いがけがありました。

 Cassidy氏は、「25年間働いてきて、たくさんのダイバーシティ、多くの自己表現を見てきました。実験的な手法や技術を使っている学生は多く、特に米国の映画業界はXR、VR、AIなどの動きが顕著で、その影響もある。」と回答。USCのプロジェクトでも、AIなどのテクノロジーを活用し、SXSWのエクスペリメンタル部門、ヴェニス映画祭でも上映されたことを紹介。昨年にはVRゲーミングプロジェクトもスタート、トロント国際映画祭で紹介されたことなど、学生たちも大いに新たな技術を駆使し、挑戦していることが伝えられました。また、一方で、「生徒たちはショートフィルムについて、商業的な側面を考えずに、シンプルに自分の表現を追求できるものと考えている。だから、ショートフィルムは素晴らしいのだなと私も思います。」と述べました。

ピュアにクリエイティブになれるのがショートフィルムの面白いところ

 

 最後に、「未來のショートフィルムは?」と聞かれると、高崎氏は、「長編だとできないことをいかに楽しむか、が短編のポイントだと思う。2時間あると逆にできないことをやるべきだなと。起承転結やビジネス、といったしがらみから離れ、ピュアにクリエイティブになれる、というのが一番面白いところ。出来上がった作品を観て、自分自身で何をしたかったか、自分の心の声をもう一度聞く、そういう場所になると良い。そういう風に作ったものが結果的に短編としても魅力的だし、短編というカルチャーを作っていくのではないか」と語りました。

イベントダイジェスト映像

<「UNLOCK CINEMA | Short Films, Infinite Possibilities」 開催概要>

■日付:

2024年1月11日(木)

■上映会場:

TCL 6 Chinese Theater

(6925 Hollywood Blvd, Hollywood, CA 90028, United States)

■時間:

6:00 pm 開場

6:30pm – 6:45pm オープニング

6:45pm – 8:45pm 上映

•  “The Bridge” (2022) Directed by Izumi Yoshida

•  “Gratitude” (2022) Directed by Eita Nagayama

•  “Heaven is Still Far Away” (2016) Directed by Ryusuke Hamaguchi

•  “MASKAHOLIC” (2021) Directed by Hiroki Horanai

•  “Negative Space” (2017) Directed by Ru Kuwahata / Max Porter

•  “Some Body Comes into the Light” (2023) Directed by Wim Wenders

8:45pm – 9:15pm トークイベント

■料金:$10.