是枝裕和 監督 「映画を劇場で観るということ」そして気になるあの作品について

是枝裕和 監督 「映画を劇場で観るということ」そして気になるあの作品について

昨年2014年11月2日開催した映画監督 是枝裕和氏を招いたクリエイターズパーティー。
2014年11月末~12月頭にかけ配信した動画の書き起こし第3弾「日常を立体的に演出する声と音 そしてロケーション」を配信していきます。

横浜のショートフィルム専門映画館、ブリリア ショートショート シアターにて映像関係者・クリエイターの方々を対象とした交流会「クリエイターズパーティー」が開催された。13回目を迎えた今回のゲストは、『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞も記憶に新しく、現在、15年初夏公開予定の『海街diary』を制作中の是枝裕和監督。「カタチを決めない“カタチ”」をトークテーマに是枝監督の映像論をたっぷりと語って頂きました。

スピーカー
・ゲスト 監督 是枝裕和
・司会 ブリリアショートショートシアター支配人 奈良太一
動画も是非ご覧ください!
#6 参加クリエイターから是枝監督に質問

参加クリエイターから是枝監督に質問

 

■ Q.映画の題材はどうやって見つけるのですか?

是枝:”気づき”をどうやって持つか・・・いやでも、単純に気になったことをノートに書いていきます。
質問者:そういうネタ帳をたくさんお持ちということですか?
是枝:ネタ帳を1冊持ってて、片っ端から気になったことを書いていって、それが膨らんでいくものはそこから独立させて1冊のノートにしていくっていうやり方をずっとしてますね。だからそれはテレビで見たニュースであることもあれば、子どもの通ってる幼稚園で聞いた話だったりすることもありますし、いろいろですよ。
■ Q.ご自身の人生に繋がりがあることじゃなければならない?

是枝:いや、そんなことないんじゃないですか?(仮に繋がりがないと思うことでも)どっか繋がってますよ。興味を持つっていうことはきっと何か繋がっているんじゃないですかね。そのなぜ興味を持ったのかっていうところを掘り下げていけばいいんじゃないですか?・・・堀下がらないときもありますけどね。
ずっとぼくあの・・・赤ちゃんポストってすごい気になってて。赤ちゃんポストができたときに最初に赤ちゃんポストのことは(ノートに)書いてるんですよね。ずーっと気になってるんですけど、なんで気になってるんだろうって思いながら、まだそこから発展はしていかないんですよね。いつか赤ちゃんポストをめぐる話をずっとやりたいなとは思ってるんですけど。そういうのがノートには書かれてます。
■ Q.『そして父になる』の結末は他にもあるのですか?

是枝:脚本の第一稿は、あの二組の家族が新しい家に引っ越して、一緒に暮らす、引越しのトラックが2台新しい家の前に止まってて、どっちの子がどっちの子かわかんないような状況で二組の家族が玄関から入っていくっていうので終わってました。だけど、いろいろ進めていく中で、ちょっとやりすぎかなっていう思いもあり。(笑)
あの、脚本の最後に「誰が誰の子どもで、誰が誰の親だか見分けがつかなかった」っていう一行が書いてあって、その一行だけ残して、その二世帯住宅的な新しい家に引っ越すというのはやめて、あの電気屋さんに入っていくっていうシーンに、まぁちょっと戻したっていうところがあるんですけど、着地点としてはそういう着地だというのは意外と早めに決めてたんですよね。その着地感をどのくらいリアルなものとして観ている方に共有していただくかということで、いろいろ書き直しをしてああなってます。撮ってはいません引越しのシーンは。
■ Q.是枝監督にとって今 切実な事とはなんでしょうか?

奈良:それでは最後にですね、いま是枝さんが注目していること、切実な問題だと思うこと、次回作のことでも構いません。そういったものは何かありますでしょうか?
是枝:まぁ、『そして父になる』でやろうとたこともそこなのかもしれないなといま思うんだけど、血縁に閉じないある共同体のかたちみたいなものをどういう風に模索できるかなというのを自分でも考えてますし、それがいま非常にこの国にとっては切実なのかなという気がしていて、たぶんそういう小さな共同体みたいなものが、それは地域社会もそうだし、家族という一番小さな共同体のかたちもそうでしょうけど、そういうものが全部いまいろんなかたちで劣化してきていることで、より病のようにナショナリズムというのがその受け皿としてそこをよりどころにできない人も不満を回収していっている気がするのね。これはたぶんすごく根が深いことであって、何十年もかかっていろんなところのネットが破けてきて、そこからこぼれた人がやっぱりそれだけでは生きていけないからそこに吸い寄せられているっていう気がするんですよ。いちばん安易な共同幻想だと思いますけど。そこに回収されないようにどうやって人がもう一度自分の足下から・・・すごくいま真面目なことを喋ってますけど(笑) そういう共同体を再構築していくかということを考えないといけない。正直に言うと、やっぱり自分の子どもの世代にどういう風に受け渡していくかっていうことを考えないといけないから、そこの分岐点にいまやっぱり来てるなという気はするのね。だから、そういうものを、もちろんそれをストレートに劇映画にするっていうのも難しいんですけど、今一番切実なのはそこ。だからそこを考えるうえで何を描くかっていうようなこともちょっと考えてる。
奈良:はい。楽しみにしています。
是枝:(笑)難しいんですよね。ん~話しちゃうと簡単なんだけど、なんかそのまま・・・「あぁ、そういうことね。」っていう映画にしてもしょうがないしね。だからもう少し根っこはどこにあるのかなっていうことは考えたいなって思ってるんですよね。今こうなってることの根っこが。
奈良:わかりました。ありがとうございます。
是枝:切実です。
奈良:切実ですね確かに。ありがとうございます。
是枝:ありがとうございました。

■映画監督:是枝 裕和
1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出。14年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭など国内外の高い評価を得ている。新作『海街diary』が2015年初夏公開予定。

▶︎#3 日常を立体的に演出する声と音 そしてロケーション/配信中
▶︎#4 国内外の違いと普遍性 日本の映画祭の在り方 /配信中   
▶︎#5 是枝監督とショートフィルム 映画を劇場で観るということ/配信中  
▶︎#6 参加クリエイターから是枝監督に質問/配信中 

クリエイターズパーティーとは?
ブリリア ショートショート シアターは、未来の映像作家への登竜門でもある国際短編映画際ショートショート フィルムフェスティバル & アジアと連動しており、クリエイター支援をコンセプトのひとつに掲げています。このイベントでは毎回、様々なジャンルからゲストスピーカーをお招きし、セミナー後にラウンジにて交流会を行っています。このイベントでの出会いが、製作に向けたコネクション作りなど、クリエイター支援はもとより、映像業界全体の活性化に繋がればという想いのもと、このような取り組みを行っています。