ヨーロッパよりお届け! ハンブルク国際映画祭レポート&ドイツの映画ファンディング事情
Written by 岡村友梨子
今月5日から14日まで、ドイツのハンブルクではハンブルク国際映画祭が行われていました。ハンブルクはドイツの北部にある港町で、ドイツの主要都市の1つです。ハンブルク国際映画祭は、1992年から毎年行われている映画祭で、観客動員数は映画祭が行われるようになった1992年の10倍ほどになり、どんどん規模を拡大しているエネルギッシュな映画祭です。
今回は、映画祭で上映された作品の1つである『Es War Einmal Indianerland (独題) 』を例として取り上げて、ドイツの映画ファンディング事情とも合わせてレポートします!
●それぞれの地方公共団体で映画制作を支援!~ ドイツの映画のパブリック・ファンディングシステム~
Filmförderung Hamburg Schleswig-Holstein
ドイツでは各州それぞれに映画のファンディングを行なっている団体があり、ハンブルクにはFilmförderung Hamburg Schleswig-Holstein(http://www.ffhsh.de/de/index.php)という映画ファンディング団体があります。Schleswig-Holsteinは、ハンブルクの北に位置していて、リューベックやキールなどの都市を含む、デンマークに隣接する最北端にある州です。
ドイツは、ベルリンやハンブルクのような規模の大きい都市はそれだけで独立しているのですが、それ以外の地域には州が存在します。このFilmförderung Hamburg Schleswig-Holsteinは、Schleswig-Holstein州とハンブルク市が共同で映画制作支援を行なっている団体ということになります。
Filmförderung Hamburg Schleswig-Holsteinは、主にハンブルク市とSchleswig-Holstein州、そしてドイツの公共テレビ局であるZDFからの援助を受け、映画やテレビドラマの制作資金をドイツの映像クリエーターに提供しています。1年間の予算が1260万ユーロ(約16億円)ほどだそうで、団体の運営費用を含んだ金額ではありますが、かなり大規模な映画制作支援をしているといえるのではないでしょうか。
ファンディング支援を受けるにはさまざまな条件がありますが、例えば支援を受けた金額のうち何パーセントかはその地域で使われなければならないといったことがあります。そうすることにより、その地域での雇用が増えて結果的にその地域に還元されることになったり、ロケーションとして使われれば観光効果もあったりと、何らかの形で地域に還元されるようになっています。
私の住んでいるベルリンにはMedienboard Berlin-Brandenburgという、ベルリン市とブランデンブルク州での映画制作支援を行っているファンディング団体があり、ドイツ国内のどこでもこういった地方公共団体から資金を調達して映画制作支援をしている大規模な団体があるというのは、日本の映画制作を取り巻く状況とは異なる点なのではないでしょうか。
ベルリンでドイツ人の映画プロデューサーのもとで働いていた時に、Medienboard Berlin-Brandenburgへのファンディング申請アプリケーションを準備するのを手伝ったことがありますが、ものすごく複雑で膨大な資料を用意せねばならず、すごく大変だった経験があります。こういった団体からファンディングを受けるのは狭き門であるようですが、それでも、ドイツでは映画を作るとなると、クラウドファンディングよりもまずこういった地方自治体の映画ファンディング団体に申請をしてみるというのが一般的なようです。
●SSFF & ASIA でも監督したショートフィルム作品が上映されました! ~ベルリン出身の監督の長編デビュー作品『Es War Einmal Indianerland 』~
今回のハンブルク国際映画祭で上映された映画の中に、『Es War Einmal Indianerland 』という作品があります。この作品は、ハンブルクにあるHamburg Media Schoolを卒業したIlker Çatak監督の長編デビュー作品です。
Çatak監督がHamburg Media Schoolでの学生時代に監督したショートフィルム作品『Sadakat(忠誠)』は、米国アカデミー賞が毎年行なっているStudent Academy Awards(学生アカデミー賞)を受賞しています。学生アカデミー賞は、通常のアカデミー賞とは別に、学生の制作した作品のみを対象にしたものです。『忠誠』は、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア大阪 2015のドイツ特集でも上映された作品なので、作品をご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれません。
『忠誠』は、社会的な内容を取り扱うシリアスなショートフィルムですが、今回ハンブルク国際映画祭で上映された『Es War Einmal Indianerland 』はそれとは対照的な、ライトで明るくて、見ている人の気持ちをハッピーにさせてくれるような青春ヒューマンドラマ作品です。ところどころ、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダぺスト・ホテル』を連想させるような、ポップでファンタジーなシーンもあります。
『Es War Einmal Indianerland 』は、ハンブルク在住のボクサー少年、マウザーのある夏の経験についての物語です。マウザーはある日、パーティーで出会ったジャッキーという女の子に恋をします。ジャッキーが郊外で行われているヒッピーなフェスティバルに行くということを聞き、マウザーもそのフェスティバルに行くのですが、マウザーはそこで不思議な体験をします…
マウザーはジャッキーに夢中ですが、その一方でビデオ屋さんで働くエダという女の子はマウザーのことが好きなよう…エダはマウザーの後を追って、このヒッピーなフェスティバルに行きます。この3人の恋の三角関係は一体どうなるのでしょうか?
『Es War Einmal Indianerland 』は、30000ユーロ(約400万円)ほど、Filmförderung Hamburg Schleswig-Holsteinからファンディング支援を受けて制作されました。Çatak監督のショートフィルム『忠誠』も同じくファンディングを受けていたようなので、ショートフィルムでの成功からの期待もあっての、長編映画のファンディングが行われたのではないでしょうか。
Çatak監督は、ドイツの若手監督の中でもかなり成功している監督ではありますが、学生や長編作品デビューの監督もファンディングを受けることができるというドイツのシステム、若手の映画クリエーターにとっては素晴らしいシステムなのではないでしょうか。
今回のハンブルク国際映画祭は、最初から最後まで参加することはできませんでしたが、他にも16作品ほどFilmförderung Hamburg Schleswig-Holsteinからの支援を受けて制作された作品が上映されました。ハンブルクやドイツで制作された作品にフォーカスしつつも、外国で制作された映画も多く上映しているハンブルク国際映画祭。来年以降、映画祭期間中にドイツを訪れる機会があればぜひ足を運んでみてください!
※今回のレポート作成に当たり以下のウェブサイトを参考にしました。
Filmförderung Hamburg Schleswig-Holstein
—(この記事はボランティアライターの協力で制作されました)—