是枝裕和 監督 「#4 国内外の違いと普遍性 日本の映画祭の在り方」動画書き起こし配信!
横浜のショートフィルム専門映画館、ブリリア ショートショート シアターにて映像関係者・クリエイターの方々を対象とした交流会「クリエイターズパーティー」が開催された。13回目を迎えた今回のゲストは、『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞も記憶に新しく、現在、15年初夏公開予定の『海街diary』を制作中の是枝裕和監督。「カタチを決めない“カタチ”」をトークテーマに是枝監督の映像論をたっぷりと語って頂きました。
スピーカー
・ゲスト 監督 是枝裕和
・司会 ブリリアショートショートシアター支配人 奈良太一
動画も是非ご覧ください!
国内外の違いと普遍性 日本の映画祭の在り方
■作り手に言いたかったことを答えてくださいっていう取材ほど恥ずかしいものはない
奈良:海外では結末を聞かれないのですか?日本ではすごくよく結末を聞かれるっていうのがあったんですけど。
是枝:あっ、テーマじゃないかなそれ。
奈良:テーマ?
是枝:この作品のテーマなんですかって日本ではよく聞かれるんだよな。取材に来た人に。この作品を通して言いたかったことは何ですかって。
奈良:あぁ、よくありますね。そんなに海外では聞かれない?それはなぜですかね。
是枝:それは自分で考えるものだと思ってるからじゃないですか?もしくは、作り手に言いたかったことを答えてくださいっていう取材ほど恥ずかしいものはない、っていうくらいの常識はあるっていうことなんじゃないですかね。
奈良:なかなか手厳しいですね。(笑)
是枝:ははは。でもね、ぼくが面白いなと思ったのは、批判ではなくてね、カンヌとか行ったときによく言われるのはね、社会が描かれないってよく言われるんだよね。
奈良:社会?
是枝:で、社会ってなんだろうなって思うじゃないですか。
奈良:はい。
是枝:でもやっぱり韓国映画・中国映画には描かれる社会が日本映画には欠けている、っていうことを結構言われたんです。『誰も知らない』ぐらいのときにずいぶん言われて。でも逆にそう言われるとね、(自分が)へそ曲がりだからね。逆方向へ自分が行くんだよね。
奈良:(笑)
是枝:それで、『歩いても 歩いても』を撮ったのね。
奈良:あぁ~。
是枝:すごくドメスティックな、家の中での話をやってみようかなっと思って。で、そういうものをつくると思いのほか評価が高かったりして。
奈良:そうですよね。
是枝:だから、わからないですね。
■お前なんでおれの母親を知ってるんだ!
奈良:海外でプロモーションをされるときに、どういう売り方で、というのはあったんですか?
是枝:まぁ、出来上がると今ようやくというかセールスエージェントがついてくれるようになったので、セールスエージェントに東京で見せたりパリへ行って見せたりしつつ、意見をもらったりして、そこでもちろんカットしたりすることもあったんですけど、『歩いても』のときのセールスエージェントはあれを見て相当ドメスティックだって、日本だけでしか通用しないって言っていたんだよね。それで、確かにそうかもしれない、それならそれで別に構わないなって自分では納得していたんだよね。
だけど、ヨーロッパの映画祭出て、買い手がついて、フランスで公開したら、日本で確か15万人くらいしか入ってないんですけどフランスで二十何万人か入っていて、日本人よりかフランス人のほうが好きだったみたい。
是枝:だからわかんないんですよ。売れるか売れないかっていうことと、それが一般のレベルで届くか届かないかっていうことは、ちょっとわからないね。
奈良:うーん。
是枝:あれ(『歩いても 歩いても』)なんか、スペインの映画祭で最初にやったときに、上映終わったらスペインの港町のひげ面のおっちゃんがたくさんおれんとこに来て、「お前なんでおれの母親を知ってるんだ」って樹木希林のことを指して「あれはおれの母親だ」って言う人が結構たくさんいたのね。
奈良:ははは(笑)
是枝:それはカナダのトロントでも多かったし、韓国の釜山でもあったし、意外となんだみんな母親ってあんなもんなんだなって。あれはおれの母親なんだけどなって思ったけど。
そういうある個別を描いたことで、社会じゃないけども、ある普遍的な母親像みたいなものであれば、そんなに時代とか社会とかヨーロッパの映画が求めるような事件性みたいなものを意識的に物語の背景に忍ばせたりしなくてもいいんだなって。まぁ、したければやればいいんだけど、無理しなくてもいいんだなってことは自分なりにはわかったので、それでそれ以降なるべく目線を新聞とかネットではなくて、自分の生活している足下とか自分の家族とか、そこからスタートさせようという意識に変わりました。
また、それを何本かやっていると、もう少し違う視野の広いものをやってみたいなっていう気持ちにはなるから、それは行ったりきたりなんですけど。
奈良:なるほど。
是枝:しばらくはそういうやり方でやっています。
■日本にはちゃんとした国際映画祭がない
是枝:あの、映画祭でひとつ言っていい?
奈良:はい。
是枝:日本映画と外国の映画でなにが違うかっていろんなことが違うし、映像をめぐる状況もとても違うんだけど、いちばん違うのは日本にはちゃんとした国際映画祭がないっていうのがすごく大きいと思う。
奈良:はい。がんばります・・・。
是枝:うん。いや、別にここの映画祭のことを言っているわけじゃなくて、東京国際映画祭のことを言っているんだけどね。暗に。(笑い)
奈良:実名を・・・(笑い)
是枝:別にカンヌだけが素晴らしいわけではないけれども、カンヌに行っていつも思うのは、「映画という豊かな文化に私たちがどんな貢献ができるんだろう」っていうことをやっぱりあの映画祭を運営している人間とか参加している人たちはみんな考えている。映画がどうあるべきか。映画になにができるか。(カンヌ国際映画祭に参加することは)映画っていう豊かな川の流れに自分がその一滴として参加をしていて、その豊かさに触れて戻ってきてね、もっといい映画を作りたいって思うっていう、そういう経験なのね。
奈良:素晴らしいですねそれは。
是枝:もちろんお祭りだからイベントとしてコンペはあるし、売り買い マーケットではもう札束が飛び交っている感じの、それはもうそんなにきれいな世界ではない。だけど、全体としてはやっぱり、非常に豊かな’文化的な時間’が流れている。
なぜ東京国際映画祭がだめかっていうと、経産省が主導で入ってきていて、あれは少なくとも文科省か文化庁であるべきなんだよ。で、クールジャパンと一体化しちゃったから、それはもう映画祭というよりは日本文化をコンテンツとしてどう海外にアピールして、外貨を獲得するかっていう、映画の上位に経済があってそのうえに国家があるじゃないですか。その関係の中でどう文化を語るんだろうっていうのがぼくには理解できない。
だから、今回あのあそこ(東京国際映画祭)で掲げられていた看板とかスローガンがネットでは話題にされていましたけど、根本的に発想を変えないととてもじゃないけど恥ずかしくて行きたくないもんなやっぱり。別に行っている人を批判しているわけじゃないよ?行っている人は行っている理由があるんだろうから、行けばいいと思うけど、なんで安倍晋三が開会宣言しなくちゃいけないんだよ。(笑)
奈良:やっぱりおおもとのシステムと、映画っていうものに対する認識を変えていかないといけないってことですね。
是枝:映画をコンテンツって呼ぶ人を呼んじゃいけないと思うんですよね。(笑)少なくとも映画祭には。もちろん経済産業省には経済産業省のいろんな思惑とか計画があるだろうから、それはそれでやればいいと思うけど、映画祭・・・少なくとも国際映画祭っていう名前で人々が集まっているときには、現住所である国籍というのは置いてきているはずなんだよ。
奈良:はい。
是枝:映画という世界の住人としてみんなそこでは振舞うべきなのね。そこで、もちろん誰も国旗は振り回さないわけですよ。まぁ、オリンピックも酷いと思うけど映画祭をオリンピック並みに国威発揚の手段に考えられているのかと思うと、だったらやめた方がいいんじゃないかと思うんだよね。
#5 是枝監督とショートフィルム 映画を劇場で観るということ に続く
▶︎#5 是枝監督とショートフィルム 映画を劇場で観るということ/配信中
出典元:SSFF channel :https://www.youtube.com/watch?v=SIXTBSWUeHE
■映画監督:是枝 裕和 1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出。14年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭など国内外の高い評価を得ている。新作『海街diary』が2015年初夏公開予定。
是枝裕和 監督「カタチを決めない“カタチ”」絶賛配信中!
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クリエイターズパーティーとは? ブリリア ショートショート シアターは、未来の映像作家への登竜門でもある国際短編映画際ショートショート フィルムフェスティバル & アジアと連動しており、クリエイター支援をコンセプトのひとつに掲げています。このイベントでは毎回、様々なジャンルからゲストスピーカーをお招きし、セミナー後にラウンジにて交流会を行っています。このイベントでの出会いが、製作に向けたコネクション作りなど、クリエイター支援はもとより、映像業界全体の活性化に繋がればという想いのもと、このような取り組みを行っています。