元サンダンス映画祭短編部門プログラマーロベルタ・モンロー氏に聞く企業が短編映画製作に力を入れる理由

元サンダンス映画祭短編部門プログラマーロベルタ・モンロー氏に聞く企業が短編映画製作に力を入れる理由

2010年に行われた、世界の映画業界で活躍する著名プロデューサーや監督への連続インタビュー。

長編を取りながらも短編映画を製作する意義とは?短編から学べる映画製作技術とは?ハリウッドや世界の映画業界で活躍する人々にお伺いしました。5年後でも色あせないインタビュー内容をお楽しみください。


ロベルタ・モンロー氏

元サンダンス映画祭短編部門プログラマー、映画コンサルタント、映画監督、執筆家。現在は、長編、短編(主に短編)製作における脚本分析、編集、完成までコンサルタント業務を行う。また、作品完成後は、映画祭出品、配給までのアドバイスも行う。

 Roberta-Munroe
「映画祭入選が自信につながる。」

インターネットでのショート・コンテンツの状況

サンダンス映画祭のほか、ロサンゼルス・フィルムフェスティバル(LAFF)など、数多くの映画祭で長編部門、短編部門のプログラミング(作品選定、プログラムの考案)が豊富なモンロー氏は、映画製作者、コンサルタントとしてショートフィルムのコンテンツ・売買の経験が豊かである。モンロー氏には、主に、アメリカにおけるオンライン/インターネットでのショート・コンテンツの状況と、彼女の注目しているサイトについて聞いてみた。 モンロー氏によると、現在、米国において、ショートフィルムを扱っている主なウェブサイトのひとつとして、www.hulu.com(フールー)を挙げた。フールーは、広告モデルにより、無料でNBC、FOX、ABCといったアメリカの大手ネットワーク・テレビ会社の番組を無料でストリーミング視聴を行っているサイトである。「いつでも、どこでも」をキャッチフレーズに上記3社のジョイントベンチャーとして、2008年3月にスタートした。日本では、2011年8月31日にサービスを開始している。

また、www.babelgum.comの名前もあげた。上記のフールーのように、バベルガムも広告 をメインの収入源として、モバイル、ウェブ・エンターテイメントという形で、インターネット上、オンデマンド番組を観るという形式をとっている。2007年よりスタートし、同年9月には、「Babelgum Online Film Festival」という史上初インディー系映画のオンライン映画祭を運営。審査員委員長はスパイク・リー監督が努める。ショートフィルムのコンテンツは、1分ごとの割合で売買されるという。

老舗のMTVサイトでは、ミュージックビデオを中心に、同チャンネルのコンテンツがサイ ト上でも視聴できる。ショートフィルムなど、コンテンツは平均3000ドルで売買される。この場合、MTV側の契約内容として、放映権のみ3年、独占契約になる。因みに、モンロー氏が監督したショートフィルムは、同じ条件でドイツのテレビで3000ドル、イギリスでは1000ドルで当時、販売されたということ。また、アメリカにおけるビデオグラム化権としては、2000ドル(3年)で契約したと付け加える。以上のインターネットの他、モンロー氏は、現在のショートフィルムのビジネスについては、一般企業、団体の参加が著しくなったと分析。注目の団体のひとつとして、Film Independent (www.filmindependent.org)をあげる。非営利、メンバーシップ制で自主制作監督、フィルムメイカーを支援する。現在、4000人のメンバーが登録しており、年間を通じて、カメラのレンタル、劇場上映の実現に向けての支援等を行っている。毎年2月に、スピリット・アワードを主催、優勝者には5000ドルの賞金を与える。また、モンロー氏がプログラミングを手がけたLos Angeles Film Festivalも、このFilm Independentが毎年6月に主催している。スピリット・アワードでは、バナナ・リパブリックなどスポンサーがコンペティション部門をスポンサーし、「ブランド・エンターテイメント」を打ち出している。

この「ブランド・エンターテイメント」の例として、ペプシ社が、「ペプシ・チャレンジ」というコンペティションのキャンペーンを行っている。これは、ショートフィルムに限らず、ホームレスのプロジェクト、本の執筆などいろんなアートのジャンルを問わず、アイデアを提出するというもの。チャレンジの受賞者(採用者)には200万円単位から、1000万円規模の賞金を与える。他にも、ドリトス社(ペプシ社傘下)、ドクター・ペッパー飲料、スナップル(アイスティー)など、ブランド・エンターテイメントを利用してキャンペーンを積極的に行っている。(因みに、これらのキャンペーンでは、各社の商品がショートフィルムに露出される「product placement」ことにより、監督・プロデューサーは、企業からの経済的サポートを受けるが、サンダンス映画祭など、アカデミー公認映画祭では、このような企業色が強くなる作品は「実質」入選するのは難しいということ。)

このように、企業がショートフィルムや、アートをサポートするのに理由がある。1) 米国には、一般的にアートに対しての助成金、サポートシステムの確立が少ない。 2) 企業にとっては、すばらしい才能をコンテストによって、安く見つけることができる。大金を払わずに、企業のイメージをあげることができる。例として、フォックス・サーチライト社が2005年まで、「Director’s Lab」というワークショップを行っていた。モンロー氏自身も、自分の監督作をこのLabで企画、製作し、Absolut Vodkaがスポンサーになったという。フォックス側からはスポンサーのタイアップで、2000ドルのキャッシュ、提携先のプロダクション会社から、無償でのカメラ・レンタルパッケージ、そしてコダック社からは、35ミリフィルムの現物協賛を得たという。しかし、作品が完成するとフォックス社が作品の権利を所有することになる。これら、フォックス社の「Director’s Lab」で製作された多くの作品は、サンダンス映画祭にも出品された。(余談であるが、ショートショート フィルムフェスティバルの前身であった「アメリカン・ショートショート」の入選作品も当時、これらで、製作された作品のエントリーも含まれていた)

YouTubeに関して

YouTubeは、なんでも無料で「みさせられる」、という認識が強いが、現在、監督・プロデューサーに権利料を支払い、優良コンテンツを視聴できる「スクリーニング・ルーム」というチャンネルが作られている。このサイトでは、毎週金曜日にショートフィルムを中心に、監督・プロデューサーの了解のもと、映画祭感覚でコンテンツが楽しめる。こちらは、監督・プロデューサーに権利料(平均で約50万円)を支払う仕組みとなっている。視聴数による配当のレベニューシェア型でもあるが、ここで莫大な収入が生まれるということは無い。配信される作品は、映画祭のプログラムのように、組み立てられているので、将来、このサイトを「ブランド化」するような気配である。

「人々は、インターネットを含んで、あらゆるメディア・チャンネルを使って、ショートフィルムや、ショート・コンテンツがどう、利益を生むか模索しています。もうケーブルテレビの時代は終わりました。」とモンロー氏は最後に締めくくった。