ハリウッド VFX セミナーPart1配信開始!Ⅹ-MENやナイトミュージアムからのVFXのお話です。
クリストファー・ノーラン監督作品『ダークナイト』や『インセプション』を手がけ、『インターステラー』で2015年度米国アカデミー賞視覚効果賞を受賞したイアン・ハンター氏を招き、伝統のミニチュア/ストップモーションによるSFX技術や最新VFXなどの映像マジックに迫ります。
第1回は、Ⅹ-MENやナイトミュージアム、CM撮影からのCGとミニチュアを融合させるケーススタディーの紹介です。動画も是非ご覧ください!
※6月7日(日)にSSFF & ASIA 2015内で開催されたイベントの動画と書き起こしです。
司会:ハリウッドVFXセミナーの特別ゲストイアン・ハンターさんです。どうぞ お好きな時に始めてください。
ハンター氏:ありがとう。本日は お集まりいただきありがとうございます。
招待してくれた映画祭のスタッフにも感謝します。
このような場でお話できて光栄です。今回は私の過去の作品を見ながら視覚効果の話をしましょう。
私はニューディール・スタジオのディレクター兼共同設立者です。我々は1995年に設立し視覚効果を専門としています。ミニチュア効果や映画美術で事業をスタートさせ、現在ではVFX技術での撮影も手がけるようになりました。
ビジネスパートナーのおかげもあり最近 2つの作品を担当する機会に恵まれました。バーチャルリアリティなども手がけています。これらの実績はまだ多くありませんが我々には得意とする分野があります。ミニチュア効果です。
最近では様々なVFXが制作されていますね。
CGによる合成技術が普及する中CGとミニチュア効果の融合は興味深いものです。
ミニチュア効果はCGとは全く違った手法を取ります。
事前に綿密な計画を立てる必要があるからです。今から実際にお見せしましょう。
■ケース1「X-MEN」より
ミニチュアの家を作って撮影し、家を倒壊させることで、リアルにみせる
まずはブレット・ラトナー監督の「X-MEN」です。監督が撮りたかったのはジーン・グレイのシーンです。
少女時代の家を浮かばせて騒ぎを起こし家を粉々に壊す場面です。
そこで我々のもとに依頼してきたのがスーパーバイザーのジョンでした。
依頼内容は 本物の家とCGを合成させるというものでした。監督が求める映像を撮るためです。そこで 制作したのがこちらです。
まず最初に、プリビズという映像を作りました。シミュレーション用ですね。これを使って本物とCGの配分を考えていきます。
また カットごとのカメラ位置も計画します。各カットの尺も決めます。プリビズを参考にミニチュアの家の制作に入ります。
撮影地 バンクーバーの家と全く同じように作るのです。スタッフはみんな爆発に備えて顔に防護マスクをつけています。完成した模型を青いスクリーンの前に設置します。
映画撮影時と日光の角度が同じになるよう注意します。バルサ材やスライドガラスで窓が割れやすいよう加工しました。家の構造はすべて倒壊しやすいように設計済みです。撮影の様子です。
撮影した映像をスキャンしブルースクリーン上に載せたら、背景には撮影地の映像を取り込みます。
その後 プリビズを参考にしながら家の影を加えました。今度は完成した映像にがれきや土ぼこり水しぶきを合成します。
さらにCGの水や がれきもつけ加えていきます。このように様々な要素を合成することで、先ほどのプリビズに沿った映像に仕上げていきます。
映画のキャラクターも入れる必要があります。ここで登場するキャラクターは我々がCGで制作しました。
違うアングルからもデモを行っています。同様に ミニチュアの家とCGの映像を合成しました。水やがれきも本物とCGの両方を使用します
すべて合成していきます吹き荒れる植物も入れてより迫力が出るようにしました。
今回の撮影でミニチュア効果を使った理由は、家が倒壊するシーンだったからです。
ミニチュアの家を作って撮影し、計画的に家を倒壊させました。こうすることで、リアルに仕上がるのです。実際の家より小さい模型ですが、資材は本物なので、リアルに破壊することができました。これは 模型とCGを合成した分かりやすい例でしたね。
今回は非常に短い倒壊シーンでしたが、別の例も紹介します。
■ケース2「ナイトミュージアム2」より
模型とCGのアニメーションを、完璧に合成する手法
「ナイトミュージアム2」で使用された映像です。ショーン・レヴィ監督から、 我々に依頼がありました。
アメリアというキャラクターが国立航空宇宙博物館の中を飛び回るシーンです。
撮影用に実物大の博物館のセットが作られており、映画の撮影はそこで行われました。
アメリアの飛行機は、ライトフライヤー号でライト兄弟が、初めて作った飛行機です。
始めは 背景には何もありません。この背景を制作してほしいと監督から依頼がありました。
それで 監督が撮影した実写映像をもとに、今回もプリビズの制作からスタートしました。博物館の中を飛んでいるように見せるためです。
今回のプリビズでは、細かいところまでデモを行い、建物の構造やカメラのアングルも考えながら制作しました。
もちろん合成後のことも考慮します。プリビズの後は、“テックビズ”と呼ばれる作業で、模型の大きさやカメラの動きを確認していきます。
我々はこれを参考に映像を作ります。これが背景を入れる前の最初の映像です。
その後背景のプリビズを行います。このプリビズをもとに模型を作ります。プリビズから模型のサイズを決めて立体の設計図を作ります。サイズを 測った後は実際の模型作りに入ります。
登場する飛行機はすべてCGをもとに模型が作られセットでの撮影に利用します。ミニチュア版の博物館も作りました。モジュール式なので分解することもできます。
カメラワークを確認するため再びプリビズをチェックし、実写の模型やカメラの大きさを決めていきます。
その後 プリビズどおりの映像か確認します。模型の屋根は取り外せるようにしてあるので模型の中をカメラが通り抜けられるのです。完成しました。
プリビズやテクビズを使うことにより、模型とCGのアニメーションを、完璧に合成できるのです
こうして監督の希望どおりの映像に仕上がります。モーションコントロールつきのカメラで、模型の中を撮影します。その後 このようにプリビズで、模型を組み合わせて模型にカメラを入れて撮影します。
すると プリビズと実写の撮影が見事にマッチするのです。
リズム&ヒューズスタジオが背景とライトフライヤー号のCGを制作しました。
彼らが制作したCGの映像と実写映像を合成したのです。
こうして映画のシーンが完成しました。このように 実写では不可能なこともミニチュア効果なら実現可能なのです。
始めは本物の博物館で撮影を試みましたが、実際の博物館はこれほど長くありません。
このシーンは館内撮影の許可が下りなかったので監督が意図する撮影はできないと思われました。
そこで この手法に踏み切ったわけですここまでで“倒壊シーン”の合成と“背景”の合成をご紹介しましたね。
■ケース3「飲料水のCM」より
ミニチュア効果で背景を忠実に作ることでCGのキャラを実写の世界に溶け込ませる
次にスライドでご覧いただくのは飲料水のCMで使用した技術です。
この案件はアンディ―・ホール監督から依頼を受けたものです。
彼はストップモーション風に撮影したいと望んでいました。しかし 撮影できる期間が 非常に限られていたため。ストップモーションは不可能でした。
そこで 監督が思いついたのです。“ミニチュア効果を使って実際の背景や光など細かい部分を撮影しよう”。“そこにCGのキャラを合成させるんだ”
ミニチュア効果で背景を忠実に作ることでCGのキャラを実写の世界に溶け込ませることができます。
キャラクターをリアルに見せることができるのでストップモーションと同じ効果が得られるのです。
しかも 作業時間が短くなりますミニチュアの模型を 作製している間に同時進行でCGの制作もできるからですそこでテレビ局側がキャラを作り我々が背景を作りました。
今回は森の背景ですミニチュア効果のいいところは植物や石 キノコなどの質感をリアルに出せる点でしょう。
映像全体の風合いに深みを出すことができます。
このCMはシリーズ物なので、背景は複数用意されました。これは“ラボ”です。
木の洞窟の中にたくさんのビンが並んでいます。この映像はいろんな背景に使っています。
今回はミニチュアの模型を作っただけでなく。“強化遠近法”を使い遠くの物を小さく作っています。こうすることで 森に奥行きを出すことができるのです。
空も我々が作ったものです。強化遠近法の具体例として我々が作った道路をご覧いただきましょう。
この道路は、手前の方が広く奥の方は狭く作ってあります。この丘の実物は小さいですが大きく見えますね。これは木の大きさに変化をつけたからです。
奥行きのある映像が撮れます。小さいので作業量も軽減されますが、この角度からしか撮影できません。
次は“スーパー”のセットをお見せします。実物の大きさが分かりますね。これはストップモーションを制作する際とほぼ同じで、18分の1のサイズです。
我々は 看板などの店の外観だけではなく、店内の商品や外の駐車場も忠実に再現しました。
これらの画像に写っているように我々は3Dのクマの模型も作りました。この模型を入れて撮影しておくとアニメーターが影の位置を把握することができるのです。
アニメーション作りには欠かせません。こうすることで自然な合成が可能になるからです。
もう1つ強制遠近法の例を紹介します。手前にある木は18分の1のサイズですが、奥の方のベンチは、24分の1のサイズになっています。さらに奥の 紅葉している木は、32分の1です。
これが 映像に奥行きを持たせるための技法です。
撮影はすべてモーションコントロールカメラです。こちらが我々が使っているカメラです。
このように舞台を作ることで、様々な方向から撮影することも可能になります。
我々はテレビ局からのプリビズをもとに、動きを加えていきます。
このように我々はプリビズどおりに撮影することで、CGと実写の背景を 自然に合成させることできるのです。その結果ストップモーションのような合成が できあがりました。実際にはCGと実写を組み合わせただけです。今回はアニメーションとの合成技術を紹介しました。
次に ご覧いただくのはクマの制作過程です。
クマの姿と歩き方を作り上げています。このようにCGで制作しながら同時に実写用の模型も作りました。これは毛の質感を出しています。CGと実写の模型は別の場所で作られており、最終段階で初めて合成されます。
リスのキャラクターも度々登場しています。CGからスタートして模型と合成し 光も盛り込みます。CGのキャラも入れます。先ほどの道路には、シカも登場します。ここでも光やアニメーションを加えています。ウサギもいますよ。ここでも まず模型を作った後、合成し 光の効果を入れています。アニメーションも加えたら完成です。背景に映っているビンは本物とCGの両方を使っています
Part2 クリストファーノーラン監督の作品『ダークナイト』でのケーススタディーはこちらから
Part3 アカデミー賞受賞『インターステラ―』でのVFX技術の話についてはこちらから