【レポート】寺田ゆきの「第34回テヘラン国際短編映画祭」参加レポート

【レポート】寺田ゆきの「第34回テヘラン国際短編映画祭」参加レポート

2017年10月17日から22日まで開催された第34回テヘラン国際短編映画祭(http://www.tisff.ir/)に行ってきました。今年で34回目となる国際短編映画祭は、40年ほど前から活動を続けるイラン青年映画協会が主催、テヘラン北部にあるシネマコンプレックス・パルディスメッラトにて開催されました。

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映画祭にはドキュメンタリー、ドラマ、アニメーション、ビデオアートなど合計7つの部門が設けられ、117カ国から約6000本の応募があり(イラン青年映画協会発表)45ヶ国で制作された多様な作品が上映されました。
この映画祭に向けてイラン・イスラーム文化指導省のアッバス・サレヒ氏は「短編映画は人々の詩である」と発言しています。イランの人々は詩を愛し、詩はイランの芸術文化の中心ともいえる存在です。詩のリズムを感じられる短編映画は、国内外でどのような展開を見せるのでしょうか。

 

100年以上続くイランの映画史

イラン映画史の起源は1900年初頭です。ガージャール朝のモザッファロッディーン・シャー(在位1896年-1907年)がヨーロッパ旅行中の様子を録画した事が始まりです。その後、ヨーロッパから輸入された映写機を使って、アメリカ、イギリス、エジプト、フランス、イタリア、インド、ソ連などで制作された映画が一般にも公開されるようになり、イラン国内での映画制作も始まりました。
1975年までに450を超える映画館も作られました。ところが、70年代後半に当時の王制を批判する声が高まり革命運動が激しくなると、混乱の中多くの映画館が閉鎖されてしまうという悲劇が起こりました。1979年のイスラーム革命以降は更に検閲が厳しくなり、1979年には2000本の映画のうち1800本が上映禁止になりました。

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その時の政治状況によって検閲の厳しさは変化していきますが、イスラーム体制をとるイランでは現在も撮影前にあらかじめ脚本を政府に提出する義務があります。「イスラームの規範に沿っていない」とイラン・イスラーム文化指導省が判断した場合には修正が求められたり、撮影や上映の許可がなかなか下りません。

イランでは女性が公共の場や家族以外の異性の前ではスカーフを着用することが義務付けられていますが、映画の中では普通ならスカーフを着用しない寝室のシーンであっても女性がスカーフを着用している等、具体的な決まり事があります。一見不自由にも聞こえますが、革命後のイラン映画は衰退するどころか、監督たちは表現方法を工夫し、世界中の人々に共感を与える様々な名作を生みだしてきました。
今年はジャファル・パナヒ監督の『人生タクシー』(ベルリン国際映画祭金熊賞)、アスガー・ファルハディ監督の『セールスマン』(アカデミー賞外国語映画賞)が日本でも公開され、話題を呼びました。

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映画祭会場シネマコンプレックスへ

国際短編映画祭の入場料は無料で、連日大勢の映画関係者や映画ファンが集まっていました。クラブやカラオケといった娯楽施設が街に存在しないイランでは、映画館に出かけて映画を観ることは日常の娯楽としても大きな位置を占めています。会場であるシネマコンプレックス・パルディスメッラトは普段から映画上映やイベント会場として使われ、ファーストフード店なども入っている大型施設です。当日もポップコーンが売られたり、飲み物やケーキが振舞われたりと、和やかな雰囲気の中、深夜まで賑わいは続きました。

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ドラマ部門が人気

中でも人気が高かったのはドラマ(フィクション)部門で、開演と同時にシアターは満席になり立ち見が出るほどでした。イラン国内のドラマ部門では、個人や家庭の問題をテーマにした作品や、驚くような手法で感情を表現した作品など魅力的な作品が多数ありました。
コメディーや明るい内容の映画も沢山制作されていますが、近年国際的に注目を集めたイラン映画には離婚や別れをテーマにした作品が多いのです。
日本といえばゲイシャやサムライというイメージがいつまでもステレオタイプとして付きまとうように、「暗いイラン」という国際社会が勝手に抱くイメージに合っているからシリアスで重い内容の方が海外では需要もあり注目されるのかもしれない、という現地の人の感想も聞きました。
しかしそういった事情を除いても、どれも記憶に残る作品ばかりでした。コンペティション部門では観客にも投票用紙が配布され、設置された優・良・可の3つの箱に投票を行いました。

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貴重な情報源としてのドキュメンタリー映画

イラン各地で撮影された作品が集まる国内のドキュメンタリー部門では、映像を通して首都テヘランでは見ることのできない光景や話題について知ることができました。
イラクからの移民が生活する国境付近の小さな村を取材したドキュメンタリー(「End of the city’s legal boundaries」)は、イラン国籍のパスポートを取得できず国内を移動することも許可されず苦悩する人々の様子が映し出されました。島国の日本とは違い、7つもの国と接しているイランでは、国境を越えた文化交流があります。一方で、人間が共存していくために国境や国籍が本当に必要なのかを改めて考えさせられる作品でした。
世界規模の文化交流を映し出した作品として、17世紀サファヴィー朝で作られたペルシャ絨毯が日本に伝来したことを取り上げ、日本での取材映像を交えて伝えるドキュメンタリー(「Souzangerd」)も上映され、興味を引きました。

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“会場ではイラン映画史や映画制作について書かれた本が多数販売されています”

ビデオアートとアニメーションの可能性

ドラマ、ドキュメンタリーに限らず、ビデオアートやアニメーションのジャンルも盛んです。少し前までは、アートといえば絵画や彫刻が中心だと考えられてきましたが、最近ではアートギャラリーにも映像作品が展示されることが多くなりました。
映画監督だけでなく、アーティスト達が実験的な映像を制作することも増えています。イランで制作された上映作品の多くが80年代、90年代生まれの若い監督の作品であることにも注目です。彼らは、子供の頃から日本のアニメーションや漫画を愛好し、影響を受けている世代でもあります。
今ではインターネットで世界の映像に触れることが可能ですが、90年代のイランでは、「がんばれ!キッカーズ」、「一休さん」、「キャプテン翼」などがテレビで放送され、子供たちに人気でした。他にもスタジオジブリの作品などはとても良く知られています。イラン・イスラーム文化指導省のメフディ・ヘイダリアン氏は「短編映画は動画の未来である」と言います。映画祭を訪れ、短編映画の未来と、日本との交流がますます楽しみになりました。

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受賞作品一覧ビデオアート賞:「幾何学の夢」(フランス)

最優秀作品賞:「家」(キルギス)

宗教部門最優秀賞:「ベルギーからの賓客」(イラン)

アニメ部門最優秀賞:「果てしない壁」(スペイン)

ドキュメンタリー最優秀賞:「じゅうたんの金曜日」(イラン)

最優秀ドラマ賞:「アンデロ」(ジョージア)

国際部門大賞:「醜悪な行い」(ポーランド)

(参照:ParsTodayhttp://parstoday.com/ja/news/iran-i36308

会場で流れていた映画祭のティザー映像はこちらから視聴できます。

https://en.mehrnews.com/news/128635/VIDEO-34th-Tehran-Intl-Short-Filmfest-teaser


 

寺田 ゆきの (Yukino Terada)

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東京大学大学院博士課程在籍 イラン現代文化研究中
英語で物事を考え学びたいという思いから19歳で渡英。その後、英語圏だけに留まっていては見えてこ ないものがあるとして、中東研究を志す。日本・イギリス・イラン・ドイツでの生活経験があり、国籍や 性別にとらわれることの無い、人としての交流を大切にしている。

ロンドン大学在学中には、BBCワ ールドサービスラジオやTBS ロンドン支局でのインターン、大学のラジオ局での番組作り、NHKで の通訳業務など様々な経験を積む。ドイツのベルリン滞在中にクラウドファンディングでドイツのドラ ァグクイーンを追ったドキュメンタリープロジェクトを立ち上げ、共同監督として1年間取材に取り組 む。中東研究で訪れたテヘランでの経験をアニメーション化するなどの活動もしている。