【コラム】企業だって、ショートショートしたい。もはや宣伝ではないブランデッドムービーという名の映画。
世界各国から多種多様なショートフィルムが集まる国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア。その中でも、昨年、ひときわ異彩を放った部門があるのをご存知でしょうか。それが、Branded Shortsです。
2016年に設立されたBranded Shortsは、一言でいうと、企業が製作するショートフィルムの部門です。企業は、自社や商品ブランドのイメージ向上、顧客とのコミュニケーションを目的に、ブランデッドムービーといわれる動画を製作し、顧客や生活者に向けてメッセージを届けます。昨年の映画祭では、28のブランデッドムービーが上映されました。
映画にも劣らない、もはや宣伝ではない、ブランデッドムービーのクオリティ。
「なんだ、宣伝か」と、観る側としてはついうんざりしてしまいそうですが、実際に観てみると分かります。各社のブランデッドムービーのクオリティの高さ。もうこれは、企業の宣伝ではなく、ショートフィルムなのです。
まだピンときていない人のために、ブランデッドムービーの例をあげておきますと、「東京ガス」の家族の絆が温まるストーリーといえばイメージできる人も多いでしょうか。サラリーマンのお父さんが60歳定年の日に、お母さんにこれまでのお礼をするため、娘からもらってずっととっておいた「おてつだい券」で、父娘二人で料理するシーンには、胸を打たれました。
2011年に放送された、「東芝」のLED電球のブランデッドムービーも私の中では外せない一つ。10年3653日を影絵で表現する120秒。1人暮らしから始まり、恋愛、結婚、子どもが生まれて、単身赴任、そして訪れる家族団らん。まるで名作の無声映画のような世界観に浸れる、立派なショートフィルムです。
昨年上映された28作品の中では、Branded Shorts of the Yearナショナルカテゴリーを受賞した『早稲田アカデミー/へんな生き物』篇がおススメです。「親の目線と子供の目線を別々に描く事で、とてもシネマチックに表現されている」と評されています。
アイデア、ストーリーテリング、シネマチック、エモーショナルの4つの視点
ショートショート フィルムフェスティバル & アジアでは、Branded Shortsをアイデア、ストーリーテリング、シネマチック、エモーショナルの4つの視点で評価し、Branded Shorts of the Yearが決定されます。
採点基準の一つ、エモーショナルからも伝わるように、これは単なる企業部門ではなく、各企業のマーケティング担当者の本気が作り出す世界。「早稲田アカデミー」であれば子供の目線、親の目線で、商品やサービス向上に日々向き合っているからこそ、誕生したストーリーなのだと感じさせられます。担当者の想いが観る者の心を動かす、それは映画監督や脚本家のそれとなんら変わらないものなのです。
2017年の映画祭でも、国内外からブランデッドムービーを広く募集し上映されます。「企業のブランディング、文学や音楽との融合といった形でショートフィルムの可能性をさらに広げています」と映画祭代表の別所哲也氏。今後、注目の映画ジャンルとなりそうです。
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この記事はSSFF & ASIAボランティアライターの協力で制作されました。
ライター情報
高橋正和
メーカーのマーケティング担当者。高校時代、i-modeの映画投稿サイトに映画レビューを数多く投稿し、映画評論家を夢見る。好きな映画は「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「花とアリス」「ハルフウェイ」。趣味は、お風呂・銭湯・サウナ。銭湯メディア『東京銭湯-TOKYO SENTO-』でコラム(http://tokyosento.com/author/bathclin_sento/)を連載中。