【第5回 なら国際映画祭】 パルムドール監督のクリスティアン・ムンジウと別所哲也が登壇
米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」(SSFF & ASIA)と映画作家の河瀨直美氏がエグゼクティブディレクターを務める「なら国際映画祭」は、9月22日(土)、世界遺産にも登録されている春日大社(奈良県)にて共同企画である『シネヴィジョン レッスン#2』を開催。パルムドールを含む多数のカンヌ映画祭受賞歴を持ち、今回、インターナショナルコンペティションの審査員長をつとめるクリスティアン・ムンジウ監督と、SSFF & ASIA代表の別所哲也が登壇し、映画界の未来を担う若い映像作家がどうしたら世界で才能を発揮できるかをテーマにトークを展開した。
ムンジウ監督と河瀨監督との出会いは、河瀨監督の『殯の森』がグランプリを受賞し、ムンジウ監督が『4ヶ月、3週と2日』でパルムドールを受賞した2007年のカンヌ映画祭がきっかけ。別所からカンヌ映画祭について聞かれたムンジウ監督は「パルムドールは人気のある作品に、グランプリは(少し難しくても)すばらしい作品に授与する傾向にある」とカンヌ映画祭の審査員としての経験を、監督としての立場からは「賞をもらうのは素晴らしいことだが、素晴らしい映画というものは必然的に広がっていくものだ」と語った。また河瀨監督とムンジウの共通点を別所が尋ねると、「内なる自分の声を大切にしている点でしょうか。それを大切にすることで出来上がった映画は観客の中でさらなる広がりをみせるもの」と述べた。
さらに「どんな映画にインスピレーションを受けましたか?とよく聞かれることがありますが、発想のアイデアは身の回りのことだったり、パーソナルな部分を大切にしています。また、カンヌは影響力が大きく、意味のある存在。若い人にはショートフィルムも含め自分の作品をカンヌ映画祭をはじめとした映画祭にどんどん出品してほしい」とエールを送った。
ムンジウ監督にとってのシネマの定義を聞かれると「大手、資金などは関係ない。観客にとっては多様性を感じられるかが大事で、そういった映画を作り手は提供しないといけない。そして、作り方は絶対に変えない。すべての最終的な決定権は自分に(監督に)ある」と、ムンジウ監督の映画作りにおける姿勢を語った。別所は国際短編映画祭の代表をつとめていることからショートフィルムについて投げかけると「ショートフィルムは非常に素晴らしいもだし、短編を準備してから長編をつくる監督もいる。よい作品は短くても心に残るし、俳句のようなものだ。ただ、審査員としては短いほうがいいですね」とジョークも交えつつ答え、未来の映像作家にむけての一言は、「GOOD LUCK!」とシンプルに締めくくった。
オーディエンスには、なら国際映画祭にノミネートしている海外監督も多数参加しており、映画作りのモチベーションについて尋ねられると、「はじめはストーリーを語りたいと考えていました。今は、自分の考えを映画に取り入れることを手がけている。また、本を書くのも好きで映画では表現できないことが文章ではできる。わたしは決めたことはやり抜くタイプの人間です。カンヌを目指すと公言したときに周りからは笑われましたが、資金をためたり、ロッテルダム映画祭にノミネートされたり、そのロッテルダムのスタッフが私のショートフィルムを見てくれてカンヌにつながったり・・・と、映画作りにおいて満足することはないけれど、常に新鮮な気持ちで自分の思いを強くもつことが大切です」と監督としてのマインドセットを力説。また、質疑応答から参加した河瀨監督は「アーティストにとって必要なのはハングリー精神」と付け加え、観客からは登壇した3人に向けて大きな拍手が送られた。
「なら国際映画祭」は平城遷都1300年目となる2010年にスタート。映画祭は2年に1回開催しています。第5回を迎えた今年は「RE:CREATION」と「次の世代へ」がテーマ。SSFF & ASIAとはシネヴィジョンのほか、ユース審査員プログラムとしてSSFF & ASIA がセレクションしたショートフィルム5作品の上映がある。なら国際映画祭は9月24日(月・祝)まで開催。
※シネヴィジョンとは
世界の第一線で活躍する映画人たちによるトークディスカッションシリーズ。第一弾は、ラース・フォン・トリアー監督作品を手がける敏腕女性プロデューサー、マリアン・スロット氏と河瀨直美監督のディスカッションを今年6月に東京で開催されたSSFF & ASIA 2018にてシネヴィジョン レッスン#1として実施しました。
シネヴィジョン レッスン#1のイベント動画はこちらにてご覧いただけます。
PART1 https://youtu.be/EMyzPHjcRRQ
PART2 https://youtu.be/a52gcj-r5YQ
PART3 https://youtu.be/GAuZKT5E48A
■ゲストプロフィール
クリスンティアン・ムンジウ
1968年ルーマニア、ラシ生まれの映画監督。長編2作目『4カ月、3週間と2日』は、2007年カンヌ映画祭コンペティションにて、最高賞のパルム・ドールを受賞。この作品は、その他多数の国際的映画賞を獲得。彼の5作目である『エリザのために』(原題:Bacalaureat)は2016年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞。
別所哲也
1990年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)メンバーとなる。その後、映画・TV・舞台・ラジオ等で幅広く活躍し、第1回岩谷時子賞奨励賞、第63回横浜文化賞を受賞、横浜市専門委員となる。99年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰し、文化庁文化発信部門長官表彰を受賞。観光庁「VISIT JAPAN 大使」、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーに就任。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選出。
■上映作品
『エリザのために』
クリスティアン・ムンジウ カンヌ映画祭・監督賞受賞作品
出演:アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ、ヴラド・イヴァノフ
イギリス留学を控える娘・エリザがいるロメオ。ある日暴漢に襲われたエリザは、ショックで留学に関わる試験に大きな影響を残しそうだ。ロメオは娘の留学をかなえるべく、ある条件と交換に試験に合格させようとするが…。
監督・脚本・製作:クリスティアン・ムンジウ
製作国 ルーマニア・フランス・ベルギー / 製作年 2016 / 128分 / カラー / DCP / 日本語字幕
作品言語: ルーマニア語 / 原題 :Bacalaureat
配給:ファインフィルムズ © Mobra Films – Why Not Productions – Les Films du Fleuve – France 3 Cinéma 2016