スイスのU-30映画祭「Jugend Filmtage」
タレントキャンプ体験レポート

2025年3月、スイス・チューリッヒで第49回目となる若手フィルムメイカー(30歳以下を対象)の国際映画祭「Jugend Filmtage」が開催され、SSFF & ASIAから推薦された7つのショートフィルムの上映、そしてタレントキャンプとしてヨーロッパ各国から集まるクリエイターたちの5日間にわたるワークショップが行われました。
今年、本映画祭でフォーカスしたのが「日本」だったことから、SSFF & ASIA 2024のU-25部門で優秀賞を受賞した川邉出雲監督がタレントキャンプに招待されました。キャンプ終了後に体験内容や感想をお聞きしました。

●今回のキャンプ、どんな国から何人くらいが参加していましたか?
キャンプには約20名が参加していました。参加者はヨーロッパを中心に、さまざまな国から集まっていました。
●年齢層、男女比はいかがでしたか?
最年少は18歳で、20代中盤までの参加者が多かったです。男女比は女性が多めで、男性は私を含めて6人だけでした。

●キャンプではどんな体験をされましたか?
毎日、映画業界のさまざまな分野で活躍する講師の方々が講義を行いました。例えば、ライティングの講師は『ブレイキング・バッド』を題材に、物語の基本構造や「きっかけ」について解説するとともに、大規模なシリーズのライターとしてチーム内でどのように協力しているのかについても話してくれました。

また、サステイナブルな映画制作を推進するプロデューサーや、男女差別をテーマにしたドキュメンタリーを制作し、ベルリン国際映画祭やアカデミー賞のショートリストに選ばれた監督の講義もありました。
特に印象に残ったのは、フランスのデジタル映画監督Loïcのレクチャーです。彼は自身のインターネットとの関わりを表現するデジタル技術を駆使した映画を制作しており、その講義は自分の表現の幅を広げるきっかけになりました。さらに、彼とは共通の知人であるフランスの写真家ローレントの話を通じて、ヨーロッパの映画制作における資金調達の仕組みについても学ぶことができました。

特にヨーロッパ(特にフランス)では、映画は単なるエンターテインメントビジネスではなく「アート」として捉えられており、それが人間にとって不可欠なものであるという考えが根付いていることに気づかされました。アーティストの生活費や制作費が国から支援されるケースが多く、アメリカの「映画=ビジネス」という考え方とは対照的でした。アメリカでは資金調達の方法を学ぶ授業が多く、これは重要だと感じていますが、ヨーロッパのようなアートへのアプローチも興味深いと改めて思いました。
●教室の外でも、アクティビティはありましたか?
実際に撮影や制作をする機会はありませんでしたが、ヨーロッパの若い映画関係者とネットワーキングをすることができたのが大きな収穫でした。ピッチコンペティションやオープニング、クロージングイベントでは、スイスだけでなく、ヨーロッパ各国の映画関係者と交流し、連絡先を交換することができました。

特に、映画祭では同世代のクリエイターと出会う機会が少ないのですが、今回は若い世代にフォーカスした場だったため、スイスの有名な映画学校に通う同世代の学生と将来について話すことができたのは貴重な経験でした。ヨーロッパで撮影をする機会があれば頼れる友人ができたことが、今回のキャンプで得た最も重要な成果だと思います。
●キャンプ中、大変だったことはありましたか?
特に大きな困難はありませんでした。プログラムディレクターのヴァレンティナやキャンプの運営を担当していたサムが、到着時から親身にサポートしてくれたおかげで、ワークショップに集中することができました。
●今年は日本がFocus国でしたが、その点で質問を受けたり、意見を求められたりしましたか?
ヴァレンティナと話した際、今年がヨーロッパ以外の国をFocus国にした初めての年だったと聞き、その機会に招待してもらえたことを光栄に思いました。Focus国だからといって特別な質問を受けることはありませんでしたが、映画産業についての意見交換は非常に有意義でした。

私はこれまで日本、シンガポール、インドネシア、アメリカなど様々な国の撮影現場を経験しているため、「ヨーロッパと比べてどうなのか?」と意見を求められることは多かったです。ヨーロッパでは国境を越えて移住することが一般的であり、その点で映画制作の環境も異なります。私の映画は日本とシンガポールの環境の違いを描いていますが、それがヨーロッパの観客にも共感してもらえたことはとても嬉しかったです。
●キャンプを通じて得た発見や収穫はありましたか?
最大の収穫は、同世代の映画制作者たちとのネットワークを築けたことです。フォーマルな場だけでなく、バーに行ったり、部屋で雑談したり、マクドナルドに行ったりといった何気ない時間の中で、自分たちの夢や目標について話し合えたことが、最も有意義だったと感じます。
また、多くのヨーロッパの短編映画を鑑賞する機会がありました。その中で気づいたのは、ヨーロッパの映画はアート寄りの作品が多く、物語のどんでん返しやドラマ性よりも、作品が扱うテーマやメッセージ性を重視している点です。
イギリスの映画学校を見学した際にも感じましたが、西海岸(アメリカ)はドラマ性を重視し、ヨーロッパはアート寄りの映画が多い傾向があります。そのため、私はそのバランスが取れているニューヨークのインディペンデントシーンが、自分にとって最適な学びの場だと再確認することができました。

●現在、川邉監督が勉強していること、将来の目標、夢はありますか?
現在、ニューヨーク大学では、オーディオやカメラなどの技術的なスキルから、アートとしての自己表現方法まで幅広く学んでいます。特に力を入れているのは脚本と演出の授業です。
脚本では、自分が表現したいテーマをどのように物語の構造に落とし込むかを学んでいます。演出の授業では、30分間で脚本と2人の俳優を渡され、その短時間でどのようにキャラクターを確立し、言葉だけで演技を引き出すかを評価される試験がありました。これは現場経験だけでは得られない、ニューヨークならではの演出力を学べる貴重な授業でした。
将来の目標は、大学卒業後に長編映画を制作することです。そのために必要な資金調達能力、ネットワーク、監督としての技術を、この4年間でしっかりと身につけていきたいと考えています。短期的な目標としては、学内で制作した映画でアカデミー学生賞を受賞すること。大きな目標ですが、一歩ずつ着実に進んでいきたいと思います。