コラム・ブルネイColumn Brunei

ブルネイ 

2016/08/01

Column by Asia Network代表  長島文雄

○お金持ちの国ブルネイ
「ブルネイ」と聞いて、どこにある国か分かる方はほとんどいないでしょう。ブルネイの正式国名は、「ブルネイ・ダルサラーム」(Brunei Darussalam)といいます。立憲君主制で、国王が絶大なる権限を持っている国です。
場所は赤道の少し北、ボルネオ島(Borneo Island)の北側に位置しています。国土は東西南の三方をマレーシア領に囲まれており、北側だけが海に面しているとても小さな国です。面積は、東京都の約2.6倍しかありません。国教はイスラム教で、民族構成はマレー系66%、中華系10%、その他24%となっています。
私が初めてブルネイへ行った当時、ブルネイは「世界で一番お金持ちの国」と言われていました。何を基準にして世界一としたのか分かりませんが、そうなっていたのです。おそらく、何となく国のイメージでそう言われていたのだと思います。ぜひ、世界で一番お金持ちの国というのを一度見てみたいと思い行ってみることにしました。

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○ブルネイへ入国
当時は今のようにインターネットが発達していませんでしたので、ブルネイがどのような場所なのかはほとんど知らずに訪れたのです。マレーシアから船で、首都のバンダルスリブガワン(Bandar Seri Begawan)郊外の船着き場に到着したのです。イミグレーション兼税関では、簡単な荷物検査が行われました。その際、係官が、「持ち込んではいけない物をお持ちになっていませんよね」と問うたのです。私はそれが麻薬のことを指しているのだと思ったのですが、わざと「具体的にはどのような物ですか?」と聞いてみました。すると、答えは、「お酒とか女性のなまめかしい姿の写真が載っている雑誌などです」との意外?な答えでした(申告すれば、酒類は一定量までは持ち込めます)。実はこの答えが、この国の一面を如実に表していたのです。
さて、船着場のターミナルの外へ出てみると、なんとそこは広大な空き地になっていました。めぼしい建物は何もないのです。どうやって町まで行くのでしょうか?視界に飛び込んできたのは、一台の小さなバスでした。バスが停まっている所まで行ってたずねてみると、町中へはこのバスで行くことができるとのことでした。
私は「世界一お金持ちの国」と聞き、なんとなくなのですが、首都のバンダルスリブガワンは高層ビルが林立するシンガポール(Singapore)の中心部のような場所ではないかと想像していたのです。ところが、町の中心部に着いてみると、高層ビルなど一つもない普通の地方都市という感じでした。これには、とても驚いてしまったのを今でも覚えています。
また、バンダルスリブガワンを流れるブルネイ川沿いには、多くの水上家屋があります。家屋は木造のシンプルなもので、お金持ちの国にこのような家屋があるとはちょっと不思議な感じです。これらは、決してスラムではありません。朝、出勤時間になると、水上の家々からびしっと決めた服を着た男性やこぎれいな服装の女性たちが出てくるのを見ると、なんだかちょっと違和感を持ってしまいました。以前、政府は、水上家屋の住民を陸に上げようと移住政策を進めていました。ですが、この政策はなかなかうまくいかなかったのです。政府が用意した代替えの住居がよくなかったわけではありません。多くの水上家屋の住民が、今の住居の方が涼しくて住み心地がいいので移ろうとしなかったのです。

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○お酒が飲めない国
ブルネイは、かなり厳格なイスラム教国です。そのために、飲酒が禁じられています。外国人は飲むことができるのですが、現地では売っていませんので事実上飲むことができません。ですが、ブルネイの多くの人たちはお酒の味を知っており、とてもお酒が好き?なのだそうです(ブルネイ人の方がそう言っていました)。飲酒が禁じられているのに、どうしてお酒の味を知っているのでしょう?それは、お年寄りの方たちは、以前は飲酒が禁止されていなかったのでお酒を飲んだことがあるのだそうです。若い人たちは、シンガポールなどの外国へ留学することが多いので、その時にお酒を覚えてしまうのだそうです。また、バンダルスリブガワンから船でたった一時間ほどのマレーシア領には、ラブアン島(Labuan Island)があります。ここでは、自由にお酒を飲むことができます。しかも、自由貿易港ですので税金がかかりません。つまり、お酒が安いのです。ですので、お酒を飲もうと思えば、すぐ手の届く場所に気軽に飲酒できる場所があるのです。また、詳しくは教えてもらえなかったのですが、裏では町中でお酒が飲める場所がないわけではないとのことでした。
ブルネイが豊かなのは、天然ガスと石油が多く産出するからです。特に、天然ガスの一番の輸出先は日本だそうで、その総産出量の9割にも及ぶそうです。ですが、最近では「天然ガスも石油も、あと数年で枯渇するかもしれない」と言われて続けています。そのため、国は観光立国へとかじを切ったとも言われていますが、あまりうまくはいっていないようです。
この国には、さすがにお金持ちの国だと思えることがあります。それは、所得税も消費税もないことです。これって、かなりすごいことですよね。消費税を数パーセント上げることに関してもめにもめている某国とは、とても大きな違いがあります。
また、国が、ジュルドン・パーク(Jerudong Park)というとてつもなく大きなテーマ・パークを作りました。ここは、東南アジアで一番大きいテーマ・パークとも言われています。そして、開業当初には、入場料もアトラクション利用料も無料という大盤振る舞いだったのです(その後、紆余曲折があり、一部が有料化されました)。しかも、ここではハサナル・ボルキア国王の50歳の誕生日を祝して、あのマイケル・ジャクソンによる無料コンサートが開かれたこともあるのです。ちなみに、このテーマ・パークは、基本的には一部の日を抜かして夕方以降しか開いていません。なんでも、昼間は暑いから閉まっているのだそうです。という、東南アジア最大級のテーマ・パークだったのですが、残念ながら現在ではすたれてしまったという情報もあります。
王宮イスタナ・ヌルル・イマン(Istana Nurul Iman) もスケールが違います。王宮としては世界最大級の規模を持つと言われ、1984年のブルネイ独立を記念して建造され現国王の住居兼総理府官庁になっています。その敷地は20ヘクタールにも及び、1788もの部屋を擁するといいます。しかも、そこには、数百台ものロールスロイスを初めとする超高級車が並んでいるとのことなのです。

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○映画産業はこれから
狭いブルネイですが、バンダルスリブガワンにはいくつかの映画館があります。知人が観に行った時の鑑賞料は、4ブルネイドル(約310円)だったそうです。ブルネイの物価から考えても、日本よりもはるかに安いと言えます。知人はブルネイ映画を見たかったのだそうですが、残念ながらやっていなかったとのことでした。
ザ エンパイア ホテル & カントリー クラブ・ブルネイ(The Empire Hotel & Country club Brunei)という超豪華ホテルがあります。ここは、五つ星ホテルならぬ七つ星ホテルだとも言われているホテルです。そして、ここには、映画館まで備わっているのです。この映画館は、かなり豪華なようです。
なにせ小さな国ですので、映画産業は成立しないようです。国産の長編作品はほとんど作られていないのが現状です。ブルネイで通常話されている言語はマレーシア語ですので、マレーシアやインドネシアの作品なら字幕なしでも理解することができます。それゆえ、無理して国内で作品を作る必要はないかもしれません。
そんなブルネイの映画ですが、日本でも上映された作品があります。劇場公開ではありませんが、2015年の大阪アジアン映画祭(Osaka Asian Film Festival)等でシティ・カマルディン(Siti Kamaluddin)監督の「ドラゴン・ガール」(Yasmine)<2014年>というアクション作品が上映されています。これは、ブルネイ初の長編作品だとか。日本でもDVD化されていますので、興味がある方はぜひご覧になってください。
ブルネイの映画産業はまだまだこれからです。しかし、お金持ちで王様の権力が非常に強い国です。そして、国内にある会社の半分以上が国営企業なのです。つまり、国民の多くは公務員です。そんな状況下ですので、国策映画ではなく商業映画を作るというのはかなりの困難があると思います。ですが、このようなアジアを代表するお金持ちの国であるブルネイが、これからどのような作品を作っていくか興味がありますよね。今後、注目してみたいですね。

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※参考
ドラゴン・ガール