2015年5月8日、横浜のショートフィルム専門映画館、ブリリア ショートショート シアターにて映像関係者・クリエイターの方々を対象とした交流会「クリエイターズパーティー」が開催された。14回目を迎えた今回のゲストは、大ヒット公開中のプロデュース作『寄生獣 完結編』や、著書『億男』『仕事。』で有名な映画プロデューサー・作家である川村元気氏。映画の作り方、小説の作り方 ~映画『寄生獣』から小説『世界から猫が消えたなら』まで~」をトークテーマに川村氏のプロデュース論や作家としてのお話しをたっぷりと語って頂きました。
全2回配信の第1回は、寄生獣と映画のプロデュース論について語っていただきます。
スピーカー
・ゲスト 映画プロデューサー/作家 川村元気氏
・MC ブリリア ショートショート シアター支配人 村岡 大介
MC:映画「寄生獣」の企画自体はいつごろから立ち上がったのでしょうか
ゲスト:さかのぼると10年前程前はハリウッドに権利があって、ようやく3年前に日本に権利が戻ってきました。その結果、大コンペになってしまいましたが、結果的にVFXを人間表現として演出できる監督として山崎貴さんに声をかけて作り始めました。そして2年半前、原作権を取得することができまして、古沢良太さんに脚本を書いてもらいながらスタートしました。
MC:もともと原作の漫画の大ファンということですが、原作の一番の魅力は何ですか。
ゲスト:表面的にはホラー的な面白さがあるんですけれど、作品が持っているテーマはすごく深く、日本におけるアミニズムや八百万の神の発想がベースにあると感じています。このままだと壊れてしまうと思った地球自身が、地球にとって一番有害な生物は人間だと判断し、その人間を淘汰する為に生み出したのが寄生生物だという発想がとてもユニークだと思います。
なぜアメリカで映画化がうまくいかなかったんだろうと考えた時に、アメリカ人にとって、テロリストやエイリアンが襲ってくるというのはピンと来ても、「自分たちが悪い、人間が一番滅びるべき生物なんじゃないか」という発想は理解に苦しむらしく、実際にアメリカ版の脚本を読ませて頂くと、完全に単なるホラーになっていて、これはダメだなと。
MC:実際(映画化権をかけて)コンペをされたということで、名だたる監督が手を挙げたと思うのですが、実際公開をすると他の監督に見られるわけじゃないですか?自分が自信を持って出せる仕上がりにはなったのでしょうか。
ゲスト:そうですね。監督もそうなのですが、『告白』の撮影監督の阿藤正一さんをはじめ、いまの日本映画界で最高だと自分が思うスタッフを集めて作ったので、とても満足しています。誰もがやりたかった原作だけに、とにかくいち原作ファンとして自分たちが面白いと思っているところを適切に伝えられるか、キャスティング、脚本の部分も含めて妥協せずにできるかを主眼においてやっていましたね。
MC:寄生獣の中でこれだけは伝えたかったというポイントはありますか
ゲスト:深津絵里さん演じる田宮良子というパラサイトのキャラクターがいるのですが「人間はなぜ子供を産むんだろう」という実験を自分の体を使っていくうちに、自分の子供に情が移ってきてしまうんです。このキャラクターの顛末が原作でも屈指の名シーンと言われていますが、そこをどう表現するかをすごく悩みました。
原作者である岩明先生に最後観ていただいたら「面白かったですよ」とほめていただきました。そこが壊れてないといいなと思っていたので、ほっとしています。そこが一番やりたかったことですね。
登壇時の川村元気氏
MC:川村さんはプロデューサーとしての立場がありますし、山崎さんは監督としての立場があると思うのですが、それぞれの立場でここは譲れない等の戦いみたいなものはあったんですか?
ゲスト:僕はあんまり戦わないですね。ある程度クリエイティブが分かっている人同士が会話している分には、落としどころは絶対あると思っているんです。『告白』や『悪人』を作っていた20代の頃は、若気の至りで強いことを言ったりもしましたが、あまり効果的ではなかった部分もありました。今はあんまり強硬にこうじゃなきゃいけないという感じはないかもしれないです。
要は大喜利みたいなもので、脚本家と俳優と監督と、いろんなクリエイティブが集まっていて、それぞれいろんな意見を言うわけですよね。その中で自分の意見を通すことを目的とするのではなく、自分の意見よりいいものが出てきたらいいなと思っていつも自分の意見を言うって感じです。
映画にとって最適なチョイスはどれかということを見落とさないようにしようとしている感じでしょうね。
MC:やはりプロデューサーとして、映画を全国的に広げていかないといけないと思うんですけれども、この作品においての宣伝はいつもと展開を変えたりしたのでしょうか
ゲスト:今回は超大作なので、逆に堂々とやるってことでしたね。
『モテキ』や『告白』はゲリラ戦だったので、どうやって目立つかというのを凄く意識したのですが、今回はど真ん中の作品なので、変にひねったことをしないでやろうって決めていました。
MC:大作ならではの王道の宣伝だったんですね。
ゲスト:そうですね、ひねらないということですね
MC:たとえばショートフィルムを制作している人や若手の監督の場合、自分の作品に注目してもらうための宣伝方法としてはどういったことをすればいいと思いますか?
ゲスト:宣伝というのは、企画の段階で大まか勝負がついていて、企画が面白ければ宣伝もおのずと面白くなると思うんです。たいして面白くない映画をどんなにひねって宣伝しても、今のSNS時代では最初に見た人が「全然宣伝と違うじゃん」って言ったら一瞬で広まっちゃうので、やっぱり嘘はつけないんですよね。
なので映画の企画段階で、この時代において目立つことができるか、そういう要素をもっているかっていうことを検証しますね。あと宣伝の時は、企画の時に考えていたことをきちんと伝えられているかだと思うんですよね。
MC:自信を持った作品を出した時に、失敗したこともありますか?
ゲスト:もちろん大なり小なり失敗はたくさんあります。でも割と僕は事前に「脳内失敗」をものすごく繰り返しながら失敗の可能性を減らしていくタイプなんです。だから頭の中はすごくネガティブな人間です。
たとえば、作っている段階では、公開初日を迎えてこけてる画ばっかり想像するんですよ。とにかくお客さんが入っていないとか、評判が最悪とか。そんなことを想像して作ります。なぜかというと、今なら直せるからです。脚本の段階でまずい方向に進んでいれば、今直せば悪い方向にならなくて済むとか、キャスティングの時も妥協しそうなのを、もうひと粘りしてみようと思えたりとか、もちろん編集や音楽もそう。物を作るって行為というのは最高の自己肯定なんですよね。クリエイティブなことしている時ってみんな、自分たちが最高のものを作っているって信じ込んでいますが、僕は、それがめちゃくちゃ危ないと思っています。
自分たちが作っているものを、無条件でお客さんが面白いと思うはずがないと。だから、直せるうちに直して限界まで煮詰めて出す感じです。そこまでやると、それで結果がどうなろうと前向きでいられるところはありますね。
MC:企画からネガティブであることが、ある意味、緻密に計算をして、頭のなかで組み立てなおしをすることに繋がっているのですか。
ゲスト:組み立てなおしというか、レイヤーを多くするっていうことかなと思っています。人間というのは面白いことを思いつくと、脳が反応してそれに感動しちゃうんですよ。でも発見だけで作っちゃうと弱いので、僕はだいたい発見と発明を組み合わせてものを作ります。ここに何個も何個も重層的に発明がかけ合わさってこないと、面白いものにならないし、ヒットしないって思います。チームが「おもしろい」って盛り上がっている時に、ぼくは逆に「全然面白くないよ」って冷や水をかけるんですよね。でも刀鍛冶みたいなもんで、いい日本刀って熱して冷ましてを繰り返して、強くてよい刀が出来てくる。もちろん自己肯定っていうのは作るうえで必要なんだけれど、もっと自分たちを疑おうっていうのが基本スタンスですね。
MC:究極なネガティブということですね。
ゲスト:ものすごいネガティブですね。
そこまでネガティブだからこそ、出来上がったときはポジティブでいられるっていう感じですかね。あきらめたというか。公開した後、なかなか見直さないんですよ。これ以上直せない、時間切れで出しているので、もうあきらめて出すっていう感じです。