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【動画・書き起こし配信】ハリウッド VFX セミナーPart3配信開始!いよいよアカデミー賞受賞の『インターステラ―』からVFXのお話。 必見です!
2015-08-08

クリストファー・ノーラン監督作品『ダークナイト』や『インセプション』を手がけ、『インターステラー』で2015年度米国アカデミー賞視覚効果賞を受賞したイアン・ハンター氏を招き、伝統のミニチュア/ストップモーションによるSFX技術や最新VFXなどの映像マジックに迫ります。

第3回目の今回は、『インターステラー』からのお話。動画も是非ご覧ください!

 


その次に監督と手掛けた「インターステラー」は、前作とは違いました。いや、大きな違いはないかもしれません、とにかく何度か組んできたこともあり仕事を持ちかけられました。今回は宇宙船の模型を制作しそれを撮影しました。その映像が物語の中で重要な役割を果たしています。
ところで本作を見た人は?(みなさん観てくださって)すばらしいですね。

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それで…早い段階から制作に参加できたので、宇宙船のデザインにも携わりました。ドーナツ型の母船エンデュランス号は機体を回転させて重力を生み出します。母船に装備されている小型の宇宙船が、レインジャー号とランダー号です。レインジャーはスポーツカーのような流線型で、ランダーはトラックを思わせます。これは美術部門が手掛けたエンデュランスの初期のデザインです。こちらがレインジャーのデザインです。細部まで表したこれらのデザインを基に、ベースとなるCGモデルを作りました。このCGモデルがエンデュランスです。シンプルですが十分ガイドになります。ランダーとレインジャーのCGモデルです。CGモデルをもとに模型を作り様々なディテールを追加していきました。推進用スラスターやロケットなどです。その上で美術監督の要求どおりの宇宙船になるよう手を加えていきました。今回は最新の製造技術を数多く取り入れています。その1つが3Dプリントです。3Dプリンターを使い細かいパーツを再現しています。更にコンピューター研削装置で機体を作りました細かいパーツは3Dプリンターで樹脂製の立体モデルを作り、機体の模型に取り付けていきました。これが模型制作の様子です。3Dプリントしたパーツを組み立ててからエンデュランスに取り付けます。

続いても模型制作の様子です。金曜に撮った写真ですね。自分が着ているシャツの色で分かりました。私の隣はエンデュランスの模型制作を指揮したジョン・フェイバーです。撮影のほとんどに用いたエンデュランスの模型は、実物大の宇宙船15分の1の大きさです。スチール製の骨組みをプラスチックシェルで覆い、その上にパーツを付けました。
続いてレインジャーの制作風景です同じく15分の1スケールで作りました。右上ではパーツを図案化し、それを立体化したものを左下で付けています。恐らくスラスターでしょう。その後に型を作ります。その型にガラス繊維を流し込み軽量の機体を制作しました。その様子が右下です。この手法でレインジャーとランダーを2機ずつ作りました。軽量なのでエンデュランスに付けられます。
これはレインジャーをエンデュランスに取りつけるところです。

続いて低速度で撮った模型の制作風景です。模型の撮影にはモーションコントール・カメラを使いました。セットしたミニチュアを
コンピューターで制御されたカメラで撮るのです。これを使えば模型の動きを何度も再現できます。右側に写っているタワーのアームの先端にカメラが付いています。宇宙船が登場するシーンの大半に模型を使い、モーションコントロール・カメラで撮影しました。一方で照明は太陽光を主光線とし、フィルライトや環境光をサブとして使いました。宇宙船に当たっているのはすべて自然光です。こうしたライトを同時に使って撮影を行いました。通常は主光線や環境光をそれぞれ分けて撮りますが、すべてを一度に当てるのが監督の要望でした。映像にリアリティーを持たせるためです。監督が望んでいたのはドキュメンタリーのように撮影することでした。もし実際に宇宙で宇宙船を撮影するとしたら、その宇宙船にカメラを付けるか別の宇宙船から撮るでしょう。そう考えて至近距離での撮影を常に心がけました。ドキュメンタリー風の映像にすることで、説得力のある作品になります。宇宙船の模型を制作することになったのも、そうしたことを実現するために欠かせなかったからです。

宇宙船をデザインする上で参考にしたものがあります。NASAのスペースシャトルや国際宇宙ステーションです。例えばレインジャーの窓や耐熱タイルはスペースシャトルを思わせます。実物のデザインを細部まで熟知していれば実在しうるものを作り出すことができます。観客が宇宙船をリアルだと感じることができれば、登場人物にも説得力が生まれるのです。例えばコロンブスの映画を作るなら、彼がどんな船で航海したかを考えます。模型を作る際も同じような視点で考えました。登場人物が生きる時代に合った宇宙船ならば現実感を持って見ることができます。だからこそストーリーに入り込めるのです。

大半の撮影に15分の1スケールの模型を使いましたが、マン博士が登場するシーンは異なりました。彼がエンデュランスとのドッキングに失敗する場面では大好きなことができました。組み立てた模型の爆破です。
このシーンのためにレインジャーの大きな模型を作りました。5分の1スケールなのでかなり大きなものです。これを爆破すると機体が粉々に吹き飛び、非常にリアルでした。ホイルと樹脂で作られているレインジャーは軽量でもろいのが特徴です。写真の人物はパイロ技師のダグ・ジグラーです。この模型には大量の火薬が詰められているのに、落ち着き払っているようですね。模型の爆破操作は専門家の彼が1人で行いました。この写真では火薬を入れる前のレインジャーに窓などを付けています。
15分の1スケールの模型制作にはCGモデルやレーザーカット3Dプリントを用いました。まったく同じ技術を使って5分の1スケール版を作りました。機械に入力する数値を変えるだけで、大きさの異なる模型を再現できます。そのためミニチュアも実物大のセットも細部まで同じ造りです。異なる大きさの宇宙船に映像が切り替わっても流れを失いません。ここで作っている大きなパーツの模型を爆破用のレインジャーに取り付けます。爆発で母船の一部が崩壊する場面に備え、同じパーツをいくつも用意しました。エンジンノズルの制作は楽しかったですね。これは、レインジャーのエアロックです壊れやすい素材を使っているので、レインジャーと同時にエアロックも爆発します。

■重力を利用して“無重力”を生み出す方法

しかし宇宙では珍しい爆発をどう再現するかが課題でした。爆発が起きても宇宙には酸素も大気もありません。そのため、爆発で上がった炎は一瞬のうちに放散され消えてしまいます。一瞬だけ炎を上げたのち、爆風だけで爆発の威力を再現する方法を見つける必要がありました。パイロ技師リッチー・ヘルマーの出番です。彼は「ジョーズ」の制作にも携わったベテランで、「地獄の黙示録」ではジャングルを爆破しています。爆破シーンのプロであり創造力あふれる彼は、解決方法を見い出しました。これにより爆発で発生した炎は一瞬で消えますが、空気を利用することで機体の破片は拡散を続けます。炎が消えたら空気で破片を推進させるわけです。リッチーが行った爆破テストの映像です。衝撃に弱い試験サンプルを使っています。その後、我々は模型を外に持っていきました。宇宙船の爆発を撮影する際に機体に対してカメラを水平に向けたとします。その場合、破片が真っすぐに落ちるので、地上にいるような印象を与えます。しかし今回は重力が役に立ちました。逆さまにした模型をクレーンで宙づりにして、その真下にカメラを設置しました。カメラは機体を見上げる形になります。この場合、カメラに向かって破片が落ちてくるので無重力感を演出できるのです。この手法を“無重力”と名づけました。重力を利用して“無重力”を生み出したわけですからね。

撮影準備の様子です。このシーンの背景には夜空を使いました。いい写真でしょう。撮影前に外で撮ったものです。色温度20KのHMIライトを太陽に見立てています。

他にも課題はありました。実際に撮影することにこだわる監督が、ある演出を望んだのです。マシュー・マコノヒー演じるクーパーがブラックホールに突入するシーンがあります “ちりが吸い込まれるところも再現したい”と監督に言われ、シンプルなアイデアを思いつきました。カメラに塩をかけるのです。単純な発想ながらも、波のような美しいうねりが生まれました。高速カメラに収めるとはかない雰囲気が出ました。CG作品だけを手掛けていたら味わえない体験です。非常に基本的でシンプルな技術だったものの、最終的には荘厳なほど美しい映像になりました。レインジャーを使いその場面を撮影した時の様子です。真上を向いているカメラに塩をかけています。
すべてが順調に進む中、爆破シーンに挑む運命の日がやってきました。夜、外につるした模型の下にカメラを置きました。今からお見せする映像は通常速度で撮ったものですが、どんな感じかはつかめるでしょう。この角度からでも破片が自分に向かって飛んでくる感じがするでしょう。それが実現したのもスタッフのおかげです。何にも代え難い満足感を得ました。14週間かけて作った模型をその制作スタッフの前で吹き飛ばしたんですからね。最高でした。
これは最初に撮った模型のシーンで、映画にも使われています。撮り直しに備えて模型を2つ用意しました。監督が制作した爆破シーンの事前映像では、レインジャーの先端部にカメラが付いていました。しかし爆発する機体に付けるのは無理です。最善策としてクレーンにカメラを取り付けました。その映像の編集を終えたところで監督に“機体の先端部にカメラを付けられないか”と聞かれました。“カメラも一緒に爆発してしまう”と返すと “事前映像のようにカメラを機体に付けたい、そうすれば爆発の瞬間も機体とカメラの動きが一致する”と。私は何も言わずにうなずいていたとこの場では言っておきます。結局、監督の意向を受けて宇宙船に付けたカメラで撮影することになりました。しかし問題はその方法をどうするかです。粉々になる機体に付けたカメラで爆破シーンを撮るんですからね。そこで編み出した手法が通称“ペリ・カム”です。

150607_0276ペリカンと呼ばれる、耐久性に優れた大きなカメラケースがあります。そのケースに穴を開けてカメラを入れ、機体の先端部に付けることにしました。なお爆破にはタイマーを使うので、設定した時間に爆発を起こすことができます。そこでカメラケースに分離ボルトを取り付けました。それが功を奏して、爆破前の機体が揺れている段階でカメラケースを切り離すことができたのです。ビスタビジョン・カメラが無事で何よりでした。これはフィルムカメラです。通常のカメラはフィルムが上下方向に走り、4パーフォレーションの小さなネガが出てきます。しかしIMAXシアターでも上映されるため、大きなサイズのネガが得られるカメラが必要でした。フィルムが横に走るビスタビジョンなら大きなサイズのネガが作れます。ただし1950年以降ビスタビジョンは作られておらず、我々のカメラも当時のものです。「十戒」の撮影にも使われたこの貴重なカメラが爆破されようとしているのです。カメラを守ろうと必死でした。

それはさておき、私にとって「インターステラー」は監督との仕事が結実した作品です。前作の時よりも今回はさらに制作に没頭しました。もちろん「インセプション」の制作も楽しいものでした。しかし「インターステラー」では実際に多くのセットを作ることができました。宇宙船の外観も手掛けましたしね。さらに美術部門と共にエンデュランスのデザインにも深く関わりました。創造力をより発揮できました。今回はVFX会社ダブル・ネガティブのポール・フランクリンも制作に参加しています。彼は、エンデュランスが登場するシーンで用いる技術の6割が模型で4割はCGになると予想していました。その逆だったかもしれませんが、そんな予想を立てていました。しかし模型の撮影が進むにつれその割合は多くなっていったのです。最終的には模型が9割を占めました。一方で大気圏に入る場面などにはCGを使っています。しかしその他多くのシーンに登場するエンデュランスは模型です。模型と背景の映像を融合させています。

ちなみに今はグリーンバックを使って映画を作るのが主流です。セットを組まずにグリーンバックで撮るのは、デジタル技術が台頭した結果です。うわさに高いかもしれませんが、「インターステラー」ではグリーンバックを一切使用していません。できる限り実物をフィルムに収めるために、アイスランドでもロケを行いました。その映像を惑星の景色にしています。ロケで撮った景色を映写機で投影した背景で、俳優が演じるのです。一方、模型の撮影には黒バックを使いました。グリーンバックを使わなくても光量を調整すれば濃淡をつけられます。こうした手法がドキュメンタリー感を生み出しました。実際に撮影した映像同士を融合しているからこそ実現できたのです。さらに、模型は物語で起きている出来事をリアルに見せる役割も果たしました。すばらしいCGと組み合わせたのも大きいですね。ダブル・ネガティブが手掛けた中でも、ブラックホールは傑作です。技術の融合により物語に説得力が生まれ、監督の世界観を表現できました。映像をすべてお見せするのは無理ですが、その一部を紹介しましょう。
以上が模型とCGを使った視覚効果の極意です。ありがとう

MC:盛大な拍手をすばらしい講演をありがとうございました。会場には若いクリエイターも来ているので、1問だけ質疑応答をよいでしょうか。

150607_0270■Q&A

Ian: 1問だけ?いいですよ。

多額の制作費がありヒットが見込める映画は、今後もCGを多用するでしょう。模型がCGと大きく異なるのは綿密な計画が必要な点です。一方CGは模型と違い、ギリギリまで作業を続けられます。多額の予算があるスーパーヒーロー映画の場合、スタジオは公開日近くまでCGを修正することが可能です。模型を使うなら、ノーラン監督のように自分のビジョンに妥協しない姿勢が大切です。彼は自分が求める映像を明確に伝えることができます。つまりビジョンを貫くこと、そして頭に描いている映像を言葉にできることが不可欠です。言い換えれば、スタジオは一定の権限を監督に還元することになります。ですから制作費が多額の作品は、これからもCGを多用するでしょう。
一方で、CGより制作費が安いという理由で作品に模型を取り入れるケースもあります。「ナイトミュージアム」はその好例です。なぜ博物館の内装をフルCGにしなかったのでしょう?まず制作に時間がかかります。テクスチャ、レンダリング、ライティング、CGを出力する作業もあります。その上、模型を作るよりも費用がかかります。一方で模型は、制作スタッフを増やせば短い期間で完成させることが可能です。
先ほどの質問に答えると、今後もCG作品は増えるでしょう。制作費が多額の作品が模型を使うケースはさほど増えないと思います。しかし中規模予算の作品では、模型を積極的に使うはずです。コストが削減できますしね。ただし、すべては監督のビジョン次第です。それが明確なら最高の選択肢となるでしょう。模型は“本物”ですからね。

MC: 監督は映画制作技術を自分のものにするしかありません。でもその方が、CGに頼るよりもアーティストとしての成長につながります。

Ian: そうですね。グリーンバックで撮影した映像をVFX会社に丸投げするわけにはいきません。監督は作品がどんな映像になるかをイメージし、それを言葉にしてスタッフに伝える必要があります。そうした能力を持つ監督を見てきました。しかし中には映像が頭に浮かばない監督もいます。 “監督なのに映像が見えていないのか”とショックを受けました。グリーンバックで撮った後は他人頼み、という監督もいるんです。いい監督なら頭にあるイメージを伝えられます。

MC:あなたにね

Ian: そう

MC: ハンターさんありがとうございました


Part1:はこちらから【動画・書き起こし配信】ハリウッド VFX セミナーPart1配信開始!Ⅹ-MENやナイトミュージアムからのVFXのお話です。

Part2:はこちらから【動画・書き起こし配信】ハリウッド VFX セミナーPart2配信開始!『ダークナイト』『インセプション』からVFXのお話 必見!

 


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