応募総数4559作品の中からイランの作品がグランプリに輝いた
8月からは来年度に向けた作品募集が開始になる予定です。
今回は、
北村監督の審査員をしての感想や若い日本の映画監督達へのメッセージをお伺いしました。
※このインタビューは2014年9月上旬号のキネマ旬報に掲載されたものです。
――「ルパン三世」の仕上げでお忙しいときに、審査員をよく引き受けられましたね。
「(映画祭代表の)別所哲也さんとは昔からのお付き合いもあり、映画を観るのは大好きなので、クソ忙しい時だったんだけど(笑)お引き受けしました。ただ最初はあまりにも膨大な数だったので、呆然として。(笑)『ルパン三世』のVFX作業をしていた韓国にも作品を持って行きましたけど、僕らの若い頃のショートフィルムとはと違って、特にインターナショナルとアジアの部門の作品がものすごく面白かったので、全然苦にはならなかったですよ」
――インターナショナル部門は、「サイの行進」(ドイツ/監督:Erik Schmitt)が優秀賞に輝きました。
「これは僕の個人的な考えかもしれないけれど、短篇なら短篇ならではの作り方があると思うんですよ。SSFF & ASIAの作品応募規程『最大25分まで』というのは、僕には長いような気がしているんだけど、今回審査員を務めて、作品はクオリティは高いし面白いんだけど、これは短篇じゃなくてもいいんじゃねえの? と疑問に思う作品があって。そういうものは僕の中では評価が下がってしまう。そんななか、『サイの行進』は短篇でしかやれない話を、現代のテクノロジーやセンスで描いていると思った。すごく凝ったことをやっているし、あのスピードとテンポ、密度でよくまとめていて。今どきはiPhoneでもカッコいい映像が撮れるし編集もできちゃうけど、そういったことが簡単にできるこの時代においても、『サイの行進』のビジュアルイメージは群を抜いていたし、また個人的には商業映画監督に繋がる才能を持った人に賞を与えたいという意識もありますね。制作会社にいる人や、会社の機材を好きに使える人ならある程度のクオリティは保障されるのだろうし。。それよりは大きな予算を与えて、長篇を撮ったらどんなものができるんだろう? と思わせてくれる人を選びたかったんですよ」
――アジア部門の優秀賞は「ホールインワンを言わない女」(インドネシア/監督:Yosep Anggi Noen)でしたね。
「観た瞬間に、僕はもうコレだ! って決めてましたね。得体の知れないものを観たという感覚はやっばり大事だし、映画祭はそういう作品を発見する場所だと思う。逆に、すべてのレベルが平均点の映画は面白くないけど、『ホールインワンを言わない女』はそんな得体の知れない作品の典型。女性が田園の中を歩いているのを手持ちカメラで撮った冒頭シーンから異常な緊張感で、相手役の男性の恐ろしさもスゴい。あの緊張感と恐怖は、プロの監督でもなかなか出せないですよ。それに、ほとんどの作品はどこから発想したのか予想がつくけれど、この映画はそれが分からない。センスもいいし、全編に渡って怒りと狂気をあれだけぶつけられたら、もう仕方がないですよ(笑)。ほかにも完成度の高い作品はいっぱいあったけれど、僕は監督の力量が完全にブッちぎっていると思ったんです」
――最終的には、「ホールインワン~」が「サイの行進」を押さえてグランプリに輝きましたが、その勝因はどこに?
「『サイの行進』にはスパイク・ジョーンズの影響が感じられるけれど、『ホールインワン~』には何の影響も見られない。何を観て育ったら、こんな発想になるんだ? と思ったし、そんな底が知れないところに可能性を感じたんです」
――ジャパン(もしくは日本作品)部門はいかがでしたでしょうか?
「正直に言うと、レベルが違いすぎて厳しいですね。アジアや世界と比べると圧倒的に差がある。 短編で勝負するというよりも、長篇が撮れないから短篇をやってるという感じの作品が多くて。それと、岩井俊二さんの映画を真似た“岩井俊二コンプレックス”ものも多くて。岩井さんは類まれなる才能なんだから、その上っ面を真似てもいい作品はできないですよ」
――では、どうしたら具体的な解決方法になると思いますか?
「自主映画を作っている若い監督たちは映画を観てなさ過ぎますね。もちろん、映画を死ぬほど観ていれば、いい映画を作れるということではないですよ。でも、映画が好きでやっているんだったら、観ようぜ! って思いますね。映画を観てなくても、本を読んでればいいですよ。でなければ、すごい経験をしているとか。そういうものがなければ、面白いものが作れるわけがない。映画をナメちゃダメですよ。プロだろうが自主映画の監督だろうが、映画を作る表現者ならプライドを持って、腹をくくってやらないと人の心に残るような映画なんて作れないと思います」
――今回審査員を務めて、ご自身のプラスになったことはありますか?
「彼らの作品から、映画を撮り始めた頃の初期衝動やパッションをガンガン感じました。映画祭と『ルパン三世』製作時期が重なって、本当に最後の最後の一番しんどい時だったけど、若い奴らが頑張っているのを見て、それがすごく刺激になったのがよかったですね」
執筆者
取材・文=イソガイマサト
北村龍平監督プロフィール
きたむら・りゅうへい/1969年生まれ、大阪府出身。17歳でオーストラリアにわたり映画学校へ入学。帰国後、01年に発表したバイオレンスアクション「ヴァ―サス」が世界的に評価を受ける。主な作品に「あずみ」(03)「ゴジラ・ファイナル・ウォーズ」(04)「ラブデス」(07)など。ハリウッド進出も果し、「ミッドナイト・ミート・トレイン」(08)「NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ」(12)を監督する。