Column & Interviewコラム&インタビュー 詳細

【インタビュー】「戦争と生きる力」プログラムのオフィシャルサポーター、赤十字国際委員会(ICRC)に聞く、短編映画で伝えたいこと

2017年6月2日

SSFF & ASIA では、2015年より赤十字国際委員会さんのご協賛をいただき「戦争と生きる力」プログラムを上映しています。3年目の今年は12作品をラインナップ。世界のいまをショートフィルムでお伝えします。

今回は赤十字国際委員会の眞壁 仁美 さんにインタビュー。赤十字の活動やプログラムの紹介をいただきました!

 

Q1. W&Pプログラムの趣旨について教えてください。

このプログラムは、戦後70年を迎えた2015年に産声を上げました。

“戦後”というだけあって、日本にとって戦争は過去の出来事で、私たち日本人は世界もうらやむほどの平和を日々満喫しています。

その一方で、世界各地では今この時も、一向に終わる気配のない戦争・紛争に多くの人の人生が狂わされています。彼らにとって戦争は現在進行形で、命や生活、愛する人や大切なものを日々奪っていきます。

戦時下に暮らす人も、平和な国に住む私たちも、変わらず食卓を囲み、家族や友達と語り、恋人と大切な時間を過ごしています。住んでいる場所が違うだけ、生まれてきた国が違うだけで、生きるための営みは何も変わりません。

作品に登場するさまざまな境遇の人たちの人生や想いに触れ、

身近な人を思いやり、助け合うことの大切さを感じてもらいたい―――

そして、平和であることの大切さ、ありがたみをもう一度みんなで考えたい―――

そうした想いから実現したプログラムです。

『アレッポへの旅 / Journey To Aleppo』 Juuso Lavonen & Vesa Rajala/21:03/フィンランド/ドキュメンタリー/2016

 

Q2.そもそもなぜ赤十字が戦争を取り上げるのですか?赤十字国際委員会の仕事について教えてください。

赤十字は、150年以上前に起きた戦争から生まれた組織です。「敵味方の区別なく、傷ついた人は全て救う」という理念のもと、永世中立国のスイス・ジュネーブでICRCは発足しました。赤十字運動を構成する3つの組織の中で一番古く、紛争地に特化して人道支援を行っています。

赤十字というと、日本では医療や災害救援のイメージが強いと思いますが、戦禍の人々に寄り添い、命と尊厳を守ることを使命とするICRCの活動は多岐にわたります。生活の自立支援や食料・水・避難所の提供、離散家族の連絡回復・再会支援事業、戦争捕虜や被拘束者の訪問、戦傷外科やトラウマケアなど、時には紛争の最前線で現場の人道ニーズに応えます。14,000人を超える職員が、80ヶ国以上でこうした活動を行っています。

「公平・中立・独立」を原則に、政府、反政府勢力、ゲリラ勢力などすべての紛争当事者と対話して、人々に不必要な苦しみが与えられないよう戦時の決まりごとである国際人道法(=戦争のルール)を説くのもICRC独特の活動です。戦時下の人たちが何を望み、どうしたら苦しみや悲しみ、痛みを取り除くことができるのか。すべての人が人間らしく生きられるよう、そして、尊厳のある人生を送れるようにするのが私たちの究極の仕事です。

民間人や負傷者の保護、医療従事者へのアクセス提供など、国際人道法が謳っている内容を 紛争当事者に説明するのも大事な業務の一つです。写真は、南米コロンビアの民族解放軍(ELN)との対話(2014 年2 月) ©Juan Arredondo/Getty Images/ICRC

Q3. 今年の作品の見どころ、一押しの作品などはありますか?

戦争というと、「悲しい」「重い」「怖い」といったイメージが先行するかもしれませんが、この「戦争と生きる力」プログラムは、コメディーやアニメーション、ドキュメンタリーなど、エンターテインメント性に富んだラインナップとなっています。エンターテインメントの要素を十分生かしたうえで、時勢を反映した移民や難民問題、銃社会などに斬り込んでいます。

ゲットーに住む犬、チカ / Chika, the Dog in the Ghetto /Sandra Schießl/16:21/ドイツ/アニメーション/2016

 

プログラムは、W&P1W&P2に分かれ、それぞれ6本ずつ、計12本を上映します。

どれも素晴らしい作品なので、一押しを選ぶのは正直難しいですね(笑)。短編実写部門でアメリカのアカデミー賞を受賞した「おもちゃの国」は、まさに思いやり・助け合いといった人間の情愛が描かれていて、希望が感じられます。また、欧米メディアが「シリアのサンタ」と呼んで一躍有名になったラミ・アダム氏のドキュメンタリー映画「アレッポへの旅」も、是非見て欲しいですね。あと、難民問題が身近でない私たち日本人にとって、「ボン・ヴォヤージュ」に出てくる夫婦の葛藤や、「故郷への道」の主人公の女性が発する言葉はドキッとするのではないでしょうか。2つのコメディー作品「もしも」と「ペトロリアム」は、全体的なプログラムの味付けに欠かせない存在で、いい味を出してくれています。飼い主との絆を描いた「ゲットーに住む犬、チカ」は、チカや無邪気な子ども達に愛おしさを覚えます。

ボン・ヴォヤージュ / Bon Voyage / Marc Wilkins/22:56/スイス/ドラマ/2016

また今年は、プログラム上映とセットで、私たちが世界の「生きる力」を支えるにはどうしたらいいのか、トークゲストを交えて皆さんと一緒に考えるサイドイベントを企画しました。

お迎えするのは、今注目のフォトジャーナリスト・安田菜津紀さんと、ICRCが監修したジャーナルコミック「14歳の兵士 ザザ」の原作者・大石賢一さんです。

紛争地取材の経験を持つお二人が、日本人として何を現場で感じ、日本に帰ってきてどう伝えようとしているのか、語っていただきます。こちらも是非参加してもらえると嬉しいです。

イベント詳細・参加お申込みはこちら:http://jp.icrc.org/event/symposium19062017/

 

Q4. 観客の皆さんへのメッセージ

どの作品も、短いながらメッセージがぎっしりと詰まっていて、皆さん見終わった後、それぞれの思いを抱えて会場を後にされると思います。主人公の人生を疑似体験する方もいれば、「どうすれば今の世の中みんなが幸せになれるんだろう?」「何をどう変えれば物事って動くんだろう?」といった疑問が次々と浮かんでくる方もいるでしょう。

まずは、映画を見て、世界の片隅で力強く生きる人たちの思いに触れてください。そして、日本にいる私たちができることーー身近な人を大切に思いやるーーそこから始めてみませんか?そうした前向きな思いがいずれ世界に広がり、みんなの「生きる力」を支える原動力になると赤十字は信じます。

(協力:赤十字国際委員会 駐日事務所 広報統括官 眞壁 仁美 さん)


「戦争と生きる力プログラム」(W&P)の詳細はコチラ!

http://shortshorts.org/2017/ja/program/wp-1.php

http://shortshorts.org/2017/ja/program/wp-2.php

Archives以前のコラム

Informationお知らせバナー