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【レビュー】ショートフィルムから世界の難民問題を考えるー 『ボン・ヴォヤージュ』と『サミラ』

2017年6月3日

日本で生活していると、あまり身近な問題として実感のない難民問題ですが、ニュースなどで報道されているのをよく目にされるのではないかと思います。この数年の間に、中東やアフリカからヨーロッパへ大量の難民が押し寄せたことが世界中のメディアで大きく取り上げられ、それに関してこの出来事に関する映画がヨーロッパで多く製作されるようになりました。今回は、本年度のショートショート フィルムフェスティバル & アジアで上映される、難民問題をテーマとした2つのショートフィルム『ボン・ヴォヤージュ』と『サミラ』をご紹介します。

 

『ボン・ヴォヤージュ / Bon Voyage』(Marc Wilkins/22:56/スイス/ドラマ/2016)

 

『ボン・ヴォヤージュ』は、休暇を利用して地中海を航海していたスイス人の男女を描いた作品です。ヨナスとシルビアは、小さな船で、地中海を航海して釣りを楽しんでいたのですが、ある夜、大量の難民を乗せた船を見つけます。シルビアは難民たちを助けなければ、とヨナスに言いますが、ヨナスは全員を助けることはできないから、無線で救助を呼ぶべきだと言い、2人は無線で難民の救助を要請することにしました。しかし翌朝2人が目にしたのは、2人の船に乗り移ろうとして海に飛び込み、亡くなってしまった難民たちの死体。何人か生き残っていた難民たちを2人は救助しますが、2人は難民たちと対立してしまいます。

2人が救助した難民たちは、アフリカのリビアから逃れてきた人々で、彼らはリビアに戻されると命の保証はなく危険だ、と主張します。しかしヨナスは、海上警備隊に連絡し、救助に来てもらうのが正しいことだ、と言います。ヨナスによると、難民たちをヨーロッパに連れて行くことは違法でもあるそうです。ヨナスとシルビアは、この後難民たちをどこへ連れて行くのでしょうか…?

 

『サミラ / Samira』(Charlotte A. Rolfes/16:28/ドイツ/ドラマ/2016)

 

『サミラ』は、ドイツのハンブルグ港に停留している船に刃物を持って立てこもった難民の女性を描いたショートフィルム。ハンブルグに住むヤノッシュは、警察の依頼で通訳として、この女性に立てこもりをやめるように説得をすることになります。ヤノッシュは説得に成功しますが、女性は警察に連行されてしまいます。その後で、ヤノッシュはバッグに入れられた女性の赤ちゃんを発見します。警察と女性の後を追おうとしますが、既に警察と女性はどこかに行ってしまい、ヤノッシュは仕方なく赤ちゃんを家に連れて帰ることにします。赤ちゃんは、母親と再会することができるのでしょうか…?

ヨーロッパではここ数年、ドイツをはじめとして多くの国が難民を受け入れてきましたが、難民申請をした人が全員受け入れられたわけではありませんでした。難民の受け入れを拒否したケースもあり、国際的な批判を受けるということもありました。しかし難民問題はすごく複雑で、受け入れないのは悪いことだ、と断定して一概に言える問題でもないのです。難民としてヨーロッパへとやってきた人々のほとんどが、戦争を逃れてきた人だったり、政治的な理由で自分の国にいられなかったりする人々です。自分の国に戻された場合、命の保証はありません。しかし同時に、ヨーロッパの国々にも経済的な面などで限界があり、現実的問題として、難民申請をした人全員を受け入れるのが難しい状況にあります。

Shibuya Diversity Award を受賞した『サミラ』。6/2の上映後にはキャストが登壇しQ&Aに臨みました。

 

 

『ボン・ヴォヤージュ』や『サミラ』の中でも、ヨナスとシルビアやヤノッシュの置かれている状況は非常に難しく、葛藤している様子が描かれています。どちらの作品でも、登場人物たちは大きな決断を迫られています。自分が作品の登場人物だったら、どのような決断をするかーそんなことを考えながら作品を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

『ボン・ヴォヤージュ』は戦争と生きる力プログラム supported by 赤十字1で、『サミラ』はShibuya Diversityプログラムで、それぞれ別のプログラムで上映されます。ぜひ2作品合わせてご鑑賞ください!


(この記事はボランティアライターの協力で制作されました)

ライター情報 岡村友梨子

イギリスのロンドン大学キングス・カレッジで映画学の修士号を取得後、拠点をドイツ・ベルリンへ移し、映画のプロダクションとキューレーションに携わる。
執筆のご依頼やメッセージはyurikokamura@gmail.comまで。
Twitterアカウント: lily0146


 

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